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序章

 皆様、ご無沙汰しております。

 本日から『2021年 集英社オレンジ文庫』様にて、一次選考通過作品になった『モノクロ怪奇譚』を開始致します。


 どう言う結末を迎えるのか、よろしければ、最後までお付き合いくださると幸いです。

 これは、僕の身に降りかかった出来事の、記録である。

 明治も文明開化が進み、すっかりザンギリ頭が定着してきた頃、僕は生まれた。貧乏ではなかったが、裕福と言う訳でもない僕の家柄だったが、有り難いことに、僕は大学まで卒業させて貰った。

 大学在籍中に、僕は幼馴染みで親友の里見透さとみとおると共に一冊の雑誌を作った。その雑誌には、僕と里見の短編小説を載せていたのだった。


 そう。

 僕は書き物をすることが好きだったのだ。

 大学を卒業後、僕は学校で英語の講師として働きながら、細々と物書きも続けていたのだった。


 そんな時だった。

 僕と里見が世に出していた小説雑誌が、少しずつ注目され始めたのだ。そして、僕の小説を読んでくれた出版社の方が、少しではあったが僕に書き物の仕事を回してくれるようになった。


 僕に書き物の仕事が来るようになってからしばらく後に、僕は里見と飲みに出かけた。

 酒をたらふく飲んだ里見は千鳥足の中、帰りの道中で愚痴をこぼし始めた。


「いいよなぁ、お前は」

「何だよ、藪から棒に」


 足を止めてしまった里見に合わせて、僕も足を止める。


「お前にあって、俺にないものって、何なのだ?」

「だから、突然何の話をしているのだ? 里見」

「小説だよ! 小説!」


 声を荒げる里見を見て、僕は納得する。

 同じ雑誌の中には、もちろん里見の短編小説も間違いなく入っていた。しかし、当時書き物の仕事を貰えていたのは僕だけだったのだ。里見はそこが納得いかない様子だった。


「編集の人に直接尋ねてみたら良いじゃないか」

「尋ねたさ! だが、向こうさんは何も言ってはくれないのだ!」


 あー、悔しい! と、里見は地団駄を踏む。僕は困り果ててしまい、


「里見。女の嫉妬はまだ可愛げがあるが、男の嫉妬は見られたものじゃあない」


 思わず微苦笑しながら口をついた僕の言葉に、里見は僕をキッと睨み付けた。


「お前のその! 人を上から見下したような態度が、俺は嫌いなのだ!」


 論点がずれたこの言葉を聞いた僕は、さすがに頭に血が上っていくのが分かった。すっと目を細めて、里見の方を見やる。


「僕が、いつ、誰を見下したと言うのだい?」

「今まで、何度も! 俺の努力の上を軽々と飛び越えて、行ってしまうではないか!」


 里見はそれが、悔しくて悔しくてならぬのだと言った。

 僕はそんな熱くなっている里見を見ていたら、自分の熱がすっと下がるのを感じた。代わりに冷たい感情が湧き起こる。

 僕は隣を走っている線路を見つめた。


「なぁ、里見よ」

「何だよ」

「僕が死ねば、君のその悔しさは消えるのかい?」

「何を言って……?」


 僕は疑問符を浮かべる里見に顔を向けると、にやりと笑った。遠くから列車がこちらへ近づいてくる音がする。


「里見、じゃあな」


 列車の明かりが近づき、危険を知らせる警笛が鳴る中、僕はゆっくりと線路の中へと身を投じるのだった。


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