8 飼い犬の下着の趣味とか知りたくない
「えっ、お前の部屋に連れて行ったのか?」
会議室に戻り報告すると、魔王様とDr.マッドが揃って口にした。当然のことに驚いている二人に、俺はクゥン?と首を傾げた。
「はい。ノエルは俺と暮らすのですから」
「番いちゃんはそれで良いって?」
「ああ。最初は戸惑っていたようだが、受け入れてくれたぞ」
俺の部屋で寛いでいたノエルを思い出し、尻尾が揺れる。今日からノエルと一緒なのだ、楽しくて仕方がない!
ノエルで頭が一杯の俺は、ひたすら浮かれていた。魔王様とDr.マッドが顔を見合わせ小声で話をしていたが、まるで耳に入らない。
「良いのか?人間は恋人や夫婦でなくとも同じ部屋で暮らすものなのか?」
「ルームシェアとかいう制度を聞いたことがあります。それに、ロイと暮らすのは犬を飼うような感覚なのでは?」
「だとしても、ロイは魔犬というより獣人に近い。それに、大好きなノエル嬢と同じ部屋で、そのぅ、我慢出来るものなのか?」
「どうでしょうね。ボクは女性に興味が無いので分かりません。でも、下手なことをしては自分の首を絞める事くらい、ロイにも理解出来ると思いますし」
「うーん、だがなぁ」
ヒソヒソと話し合っていた魔王様が黙り込み、腕を組んで考える。何が気になっているのだろう。
「ロイ。やはり未婚の男女が同室というのは駄目だろう。ノエル嬢には人間用の客間を使ってもらうのだ。その方がノエル嬢もリラックス出来るだろうし」
「そんな事はありません。俺の部屋はノエルが過ごしやすいように、あれこれ準備しています。客間より俺の部屋のほうが、ずっとずーっとリラックス出来るはずです」
俺の身体が大きくなって個室を与えられてから、またノエルと暮らす時のためにコツコツ準備してきた。給料の殆どを注ぎ込んで、新居を調えてきたのだ。
メカビーの映像を精査して、ノエルの最近の好みも把握している。時々魔王城にやって来る領主や行商人が泊まるのに使われる、渋い内装の客間なんかより、俺の部屋のほうがノエルに相応しい。それに、他の男が使った寝具をノエルに使わせるなんて、そんなこと許せる訳がない。
「具体的に何を準備したんだ?」
「風呂好きなノエルが何時でも使えるよう、水回りを改装しました。ノエルが普段使っているシャンプーとかも揃えています。ノエルが好きそうな本や小物も棚に並べてますし、ノエルが興味を持った服も買い集めました。下着は俺の趣味が入ってしまったのですが、大人っぽいレースのも可愛い苺柄も──」
「もういい、そこまで詳しく話さなくていい。飼い犬の下着の趣味とか知りたくないから。結婚するまではノエル嬢にも内緒にしておけ」
「もう見せて、俺の趣味だと話しましたが」
魔王様が頭を抱えた。頭痛でもするのだろうか。後で医務室から頭痛薬を貰ってこよう。
「ロイ、何でも正直に話せば良いってもんじゃないよ?番いちゃんに引かれなかった?」
「特に何も言われなかったが」
それどころか、俺が準備したワンピースを着ると言ってくれた。メカビーの記録映像で、ノエルがあのスミレ色のワンピースを欲しがっていると知り、すぐに買いに走って良かった。その時にお店の人に勧められた揃いの下着も、明日着てくれないかな。
そのうち俺がコーディネートした服を着たノエルとデートしたいなー等と妄想を膨らませていると、魔王様達はまたヒソヒソと囁きあっている。
「何というか……ノエル嬢は何事にも動じない性格なのかな。ロイが女性用の服や下着を集めていても、気にしないのかな」
「犬だと思われているからじゃないですか?ほら、犬には収集癖があるから」
「あー、一時オレサマの靴下を集めて隠してたなぁ。それも片方だけ。あれと同じだと思われてるのか。変態だと思われるよりはマシだが、実際変態だからフォローのしようも無いが、うーん……」
「今はひとまず犬扱いで良いんじゃないですか?ロイが完全な魔犬になるまでは、下手に男性だと意識されるよりも都合が良いかと」
「そう思って諦めるしかないか。Dr.マッド、例のものはできているな」
Dr.マッドは力強く頷いて、白衣のポケットから取り出した物を魔王様に渡す。魔王様が魔力を込めたのだろう、それは一瞬だけ淡く光った。
「ロイ、これをやる。お前の部屋に置いておけ。なるべくベッドの側にな」
「何ですか、これ?」
「安眠効果のある魔導具だ。慣れない魔王城生活で、ノエル嬢が不眠症にならないようにな」
さすがは魔王様、気配りも完璧だ。でも教えてくれれば俺が自分で用意したのに。ノエルのための物ならば、全部俺が用意したいのに。
不敬にもちょっぴり不満を持ってしまったのが顔に出ていたのか、魔王様は真剣な表情で、俺に魔導具を握らせて教え諭す。
「これは絶対に必要な魔導具だ。必ず、お前の部屋に置くように。ノエル嬢のためだ、分かったな?」
威圧まで使って了承を迫る魔王様。圧倒的強者の気配に尻尾を股に挟みながら、俺は何度も頷いた。