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6 最後の条件については蛇足だ

 ノエルの案内をロイに命じて部屋から出し、一人になった魔王は深々と溜息を吐いた。円卓の天板にだらりと身を委ね、その冷たさを暫く堪能する。ドアの開く音に視線だけを向けると、ロイ達を見送ったらしいDr.マッドがガチャガチャと音をたてながら入ってきた。


「お疲れ様です、魔王様」

「ああ、全くだ。こんなに疲れるとは思わなかった」


 部下からの労いの言葉に、魔王は呻くように返す。想像以上にロイが暴走したせいで、疲労困憊だ。


「だが何とかなって良かった。これでノエル嬢の縁談も消えるだろうし、後はロイが頑張るだけだな」

「ここまでお膳立てしたのですから、大丈夫でしょう」

「だと良いんだが。ロイはノエル嬢の事になると、ポンコツになるからな。普段あれだけ優秀なのに」


 元がただの犬だとは信じられないくらい、ロイはテキパキと仕事をこなす。たったの2年で流暢に話せるようになり、読み書きを覚え、簡単な算術も出来るようになった。身体を鍛えて強くなり、少々……かなり育ち過ぎてしまった感はあるが、立派な体躯を活かした武術もかなりの腕前だ。

 魔王が与えた魔力や魔術の影響もあるが、ロイは努力と研鑽を積み重ねて、ここまで成長した。それもこれもノエルに見合う男になる為。これほど健気な愛犬が、可愛くない訳がない。


 魔王はロイをとても可愛がっていた。ロイが監視用メカビーでノエルを見守りたいと言った時は、特別予算を組んで監視体制を整えた。領主を抱き込んで、ノエルに近寄りそうな男は排除するよう手を回した。以前から魔王国と交流があった領主は協力的で、ロイが無事魔犬になるまでノエルは独り身のはずだった。

 それなのに、よりによって人間国の王太子がノエルに興味を持つとは。


 ノエルは地元の教会で、聖属性魔法を使った治療を行っていた。その評判を聞きつけた王太子から、婚約者選定パーティーにノエルを出席させるよう、領主に要請が届いたそうだ。慌てた領主が魔王城に知らせてきて、魔王は頭を抱えた。これは下手をすると外交問題になる。早急にノエルの身柄を確保しないと、ロイが王太子に決闘でも申し込んだら如何すれば良いのだ!?


 魔王が王太子の婚約者探しに横槍を入れたと言われぬよう、ノエルが自ら魔王城に来るように仕向けなければならない。だが、単に魔王城で働いているくらいでは、王太子がすんなり手を引いてくれるには弱い。ロイと結婚させられれば話は早いのだが、魔犬になるための魔術が完成するにはもう少し時間が掛かる。魔術完成までの時間稼ぎが必要で、王太子を退けられる口実も必要で、ロイとノエルを納得させる状況も必要だ。何という無理難題。


 それでも可愛い愛犬のために、側近たちと知恵を絞って捻り出したのが、あの花嫁募集だ。魔王の花嫁候補となれば、王太子も手は出せまい。

 王太子からの要請よりも前に、ノエルは魔王城に来たことになっている。領主に魔王城まで直通の転送陣を使う許可を出し、短時間で確実にノエルが魔王城に来られるようにした。前々から魔王が花嫁を探していたと偽装するための噂も、大急ぎでばら撒いた。


 ノエル以外の花嫁希望者が現れないように、花嫁の条件を考えたのはDr.マッドだ。ノエル自身の特徴の中から、魔王の花嫁に相応しい条件を選び出した。

 黒髪金目は魔族に多い外見だから、魔王妃として受け入れられやすい。黒髪は人間にも多いが、金目の人間は稀だから、かなり該当人数が絞られる。

 聖属性魔法に適性がある者は、教会と繋がりが深い。聖属性適性者が魔王妃になれば、仲が悪い教会と魔族の架け橋になってくれるだろう。しかも聖属性を持つ者は色彩が薄いことが殆どなので、黒髪という条件が活きてくる。聖属性と黒髪を併せ持つ者は稀少で、更に人数が少なくなる。

 子どもの世話が得意との条件は、魔王の外見を知っていれば納得してくれるだろう。魔王の外見を知らない者は、次世代の子育てのための条件だとでも勘違いしてくれる。動物好きというよりも、生き物が好きでなければ、人型の魔族が少なく多種多様な魔族が暮らす魔王城ではやっていけない。この2つの条件は、当て嵌まるのがノエルだけになるように、との駄目押しみたいなものだ。

 最後の条件については蛇足だし、ノーコメントで。


 ロイに言い訳が出来るよう、花嫁募集の書類はわざと曖昧な書き方をした。領主が上手くノエルを言いくるめてくれたようで、思ったよりも早くノエルが送られてきて焦ったが、ノエルを魔王城に留め置くのも成功した。クエスト達成だ、オレサマ良くやった!時間が無い中頑張った!誰か褒めてくれ!


「大変でしたね。頑張ったご褒美に、今日の夕食は魔王様の大好きな、怪鳥卵のオムライスにしてもらいましょう」

「良いのか!?」

「勿論です。ケチャップでワンコの似顔絵も描いてあげますよ」

「やった!!」


 Dr.マッドが魔王の頭にポンと手を置く。


「ところで、どうして腕を外しているのだ?ロケットパンチにでも改造したのか?ロケットパンチはちゃんと戻って来て、元通りに身体に接続されないとダメなんだぞ?」

「そうですね。今度改良しますので、ロイを的にして性能テストをしても良いですか?」


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