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18 使い物にならない魔王

 ロイは崩れ落ちた魔王を片手で抱えると、スックと立ち上がった。キリリと真面目な表情が格好良く、モノクルが有能さを醸し出す。頑張れワンコ、負けるなワンコ、後はヨロシクお願いします。これで私はお役御免だ。

 と思っていたのに、何故かロイに手を引かれ、私も会議室へと連行された。会議室には既に人が集まっていて、私もロイの隣に座らされる。部外者を外交問題に巻き込まないで頂きたい。皆さんも私が居たら、大事な話が出来ませんよね?どうか私をここから追い出してください。


 しかし誰も私が居ることに疑問を持たないのか、話は私の目の前で進んでゆく。お願いだから国家機密とか漏らさないで。秘密保持のために殺されるのは嫌だから。


「ひとまず人間国の姫は、応接室に案内しました。ケンタウレが対応しています」

 

 まだ使い物にならない魔王の横で、Dr.マッドが場を仕切っている。この人は執務室でよく会うが、円卓につく3人は知らない人だ。人化した竜族らしい男性と、人間のような見た目で長髪の魔術士っぽい人と、大きな蕪に目鼻が付いたお爺ちゃん。それにロイと私の7人が、会議室にいるメンバーだ。


「もう少しで映像も繋がると……あ、点きましたね」


 大型スクリーンが点灯し、映像が映し出される。人間国の姫の外見が判明し、私の推測が当たっていた事が証明された。

 長い黒髪に金色の輝く瞳、年の頃は7、8歳といったところか。きっと聖属性魔法が使えて、子ども好きの動物好きなのだろう。しかも可愛い。よくこんなピッタリの姫が居たものだ。


 魔王に結婚する気があれば、これは良縁と言えるのではないだろうか。外見年齢も釣り合うし、お似合いだ。魔王が一目惚れでもすれば丸く収まるなと思いつつ、様子を窺っていたが、そんな物語のようなことは起こらなかった。よく見て魔王、あの子絶対将来美人になるよ。今のうちに確保しとこうよ。


 お姫様は椅子に腰掛けて、脚を交互にブラブラさせている。側に侍従らしき男性が立っていて、半人半馬の女性と話している。この女性がケンタウレさんだろう。今直ぐ魔王に会わせろと迫る男性と、直ぐには無理だから待っていて欲しいと宥めるケンタウレさん。早く対応を決めないと、ケンタウレさん困ってるよ。

 それなのに、なんで皆さん無言なの?


 幹部が集められているはずの会議室では、全員がスクリーンを見つめるばかりで誰も何も言わない。如何するんですかコレ?とDr.マッドに目で問う。


「つが──いえ、ノエルさん。何か妙案でも?」


 違う、そうじゃない!


「私は意見を述べる立場にありません。ただの魔王様の教育係ですので」

「教育係なんだから教えてくれ!どうすれば良い!?」


 魔王が復活するなり寝惚けた事を抜かす。私を巻き込むなって言ってるのに、なんで通じないかなー。周りの幹部も、期待した目を向けてこないで。これは貴方達の仕事でしょうが。

 少しばかりイラッとしたので、投げ遣りに答える。


「最善策は、魔王様があのお姫様と結婚することでしょうね」

「オレサマは結婚する気などない!」

「ではそう伝えてお帰り頂けば良いのでは?人間国との関係が悪化するかもしれませんが」

「それは困るのだ!」

「そう言われましても。私には政治は分からないと、最初に申し上げましたよね。政治的な話は、そちらの幹部の皆様となさるべきでは?」

「魔王国では何事も力で解決するので、こういった外交は皆苦手なんですよ」


 涙目になって俯いた魔王に代わり、Dr.マッドが言い訳する。ちっちゃい子を虐めてるみたいで心苦しいが、魔王は御年50歳になるのだ。外見に惑わされてはいけない。


「だとしても、人間国との国交が始まって、50年経ちますよね。その間多少は外交もこなして来たはずですよね。外交担当してたの誰ですか」

「先代の魔王様です」

「ではその方に連絡して、指示を仰いでください」

「それが、先代魔王様は引退されてから旅に出ておられまして。滅多に連絡もつかないんですよ」


 そんな重要人物が、所在不明でいいの?魔王国自由過ぎない?


「先代魔王様に付いていた文官は?まさか1人で外交担当してた訳じゃないでしょう」

「外遊にはケンタウレが付いてましたけど……」


 皆一斉にスクリーンに目をやる。だから彼女が対応に出てるのか。でも、見る限り彼女も外交は不得手なようだ。


 クイと袖を引かれて見ると、魔王が潤んだ瞳で私を見上げていた。懸命に涙を堪えながら、絞り出すように訴える。


「オレサマが頼り無いのが悪いのだ。何も思い付かなくて……。ノエル嬢、人間ならこんな時どうするのだ?お願いだから助けてくれ、頼む!」

「でも私、外交なんて知識も経験もありません。それに、どうなっても責任も取れませんし」

「責任ならオレサマが取る!」


 そこまで言われてしまっては、協力するしかない。実は1つだけ、対応策を思い付きはしたのだが。相手の反応次第では、泥沼になりそうなんだよなぁ。


「本当にどうなっても知りませんよ」

「ああ、全責任はオレサマにある!」

「魔王様だけでなく幹部の皆さんも、私の言う通りにして下さいますか」


 さっきから他人事みたいな顔で見物してる、貴方達のことですよ?

 円卓についている幹部達に笑っていない笑顔で確認すると、皆さん即座に頷いてくれた。


「わかりました。ではまず魔王様。私と今すぐ婚約して下さい」


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