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大根と王妃 番外編 筆頭書記官の日課

作者: 大雪

ボクの名は朱詩。

凪国王宮の一等書記官をしている。

特技は罠作り。

趣味は色々とあるが、中でも人間観察が今のマイブーム。


観察対象はその時々になるが、今は国王陛下に熱い視線を送っている。


何故かって?


それは、今とっても面白い事が起きてるからだ。



現在、即位50年になる国王陛下と王妃陛下は仲が悪い。


いや、正確に言うと王妃が夫である王を避けているのだ。

それはもう見事な避けっぷり。一緒に居てもまず目を合わせないし、何かと理由をつけて側に居る事を拒否する。

この前なんて夜のお召しさえ拒否し、切れた王に強制連行された。

あの時の王妃の断末魔は今聞いても哀れさを誘う。


でも一番哀れなのは王だろう。

だって、自分が最も愛する女性から全力で拒否されているのだから。


そんな王と王妃が今の状態になったのは、今から1ヶ月前の事だ。


王の元に隣国から貢ぎ物が届いた。

その貢ぎ物というのが問題で、蓋を開けてびっくり。

文字通り箱の中に女の子が入っていた。しかもとびっきり可愛い少女。

色香も尋常じゃないぐらい漂っており、普通なら垂涎ものだろう。

寧ろ即座に自分のものにするだろう。


少女が8歳でなければ。


そう、少女は御年20歳を過ぎる王が手を出せば犯罪になるほど幼かった。


そんな少女は隣国の貴族の姫君だという。

王の側室にどうかという事だった。


といっても王は手を出す気はなかった。

当然だろう。愛しい妻がいるのに何が悲しくて子供に手を出さなければならないのか。


確かに王ともなれば数多の美姫達は思いのまま。

手を出そうが妻妾にしようが勝手という国もある。

でも8歳の子供に手を出したら色々な意味で周囲は幻滅するだろう。


そしてそんな家臣達の思いを感じ取ったのか、聡明なる王は手を出す事はせず、すぐに少女を送り返すように家臣に命じた。

が、最後まで命令する事が出来なかった。


そこに王妃がやってきたからだ。

それも、隣国からの書状を手に。


戸惑う王と家臣達を余所に王妃は爆弾発言を落とす。


『萩波って……幼女趣味だったのね』


ごめんなさい知らなくて――そう言って申し訳なさそうにする王妃に王は凍り付いた。

その姿はもはや誰も何も言えないほど哀れだった。

しかも、王妃は更にこんな言葉を続けた。


『あの、でも手を出すのはもう少し待って上げてね』


必死にそう言い募る王妃の姿にもはや周囲は言葉がなかった。

その後、王妃宛に届いた書状を王がひったくって中を改めれば、これはもう見事なまでの嘘八百が並べたてられていた。


王が自分の所の娘を見初め是非とも后にしたいと望んでいるという言葉から始まり、いかに王が自分の娘を愛しているのかを切々と訴えつつ、王妃に身を引くようにという言葉で締められている、それ。


しかもわざわざ王妃に送りつけてくる厚顔無恥さはボクでさえ開いた口が塞がらなかった。


王の怒りに王宮は揺れた。文字通り揺れた。

というか、ブリザードが吹き荒れた。


一方、王妃は何故王が怒るのか理解出来ていないようだったが、取り敢ず近づく事を避けて早々に自室へと戻ってしまった。

しかもそれからである。


王妃が王を避け始めたのは。


確かに夫が幼女趣味であれば近づくのは遠慮したいだろう。

しかも、今だ少女を送り返せずにいる。それもこれも隣国の馬鹿どもが受け取りを拒否しているからだ。


向こうにしては、是非とも王の側室として受取って貰いたい。

そしていまだ子のいない王の子供を少女が生み国母となる事で、こちらの政治に干渉したいのだ。


凪国は炎水家直下の大国の中でも1,2を争う超大国。

この国を思いのままにする事は他国にとっては願ってもいない事だ。


とはいえ、そう簡単に発言権を与えてやる気もない。


ってか、8歳の子供が王の子供を産むまで何年かかるというのか。

それを考えただけで隣国の馬鹿さ加減の程度が分るというもの。

というかだ。なぜ年頃の姫君ではなく8歳の少女を送りつけてくる。


あれか?うちの王に幼女趣味と窺わせる何かがあったのか?垣間見たのか?


そこに王妃がやってくる。


「朱詩、助けてっ!」


えぐえぐと涙をボロボロとこぼす王妃は実年齢よりも幼く見える。

もともと体の方も寸胴に近い体型だから余計にそう見えるけど……はっ!

これか?!王妃か!!この王妃を見てそう思ったのか?!


確かに王妃は年齢に比べて幼く見え……でも8歳には見えないだろう!!


なんて事を考えていたら王妃に飛びつかれた。

でも、無様に一緒に倒れるなんて事はしない。

こう見えてもボクは王や宰相達と一緒に鍛錬をしている。

はっきりいってそこらの武官よりも強い。


「どうしたのさ?」

「萩波が、萩波がぁぁ」

「王がどうかした?」

「私が少しの間従姉妹の所に行きたいって言ったらなんか怒り出したのっ!」


そりゃ切れるよ。

王妃の従姉妹の所って、津国じゃん。

しかも、凪国から結構遠く離れた所じゃん。


「何で行きたいのさ」

「だって、二人の邪魔をしたら悪いと思って」

「君さ、うちの国崩壊させたいの?」


今王妃が居なくなったら王がどうなると思ってるのか。

たぶん、いや絶対堪忍袋の緒が叩き切れるだろう。


「だ、だけど……好きなのにあのお姫様に手を出せないで悩んでる姿を見るのは忍びなくて」


してないしてない、我慢なんてしてない。寧ろ勝手に送りつけられた事に対して怒りを我慢してる。


「従姉妹に相談したら何かいい方法がないかなって」

「津国と戦争する気?!」


そんな事を相談してみなよ!津国と戦争になるじゃないか。

しかも、王妃の従姉妹の旦那もうちの王と同じぐらい聡明な賢君だ。

政治も戦の手腕にも長けており、同じぐらいの大国。

前面衝突すればまず間違いなく、多くの土地が焦土と化すだろう。

ってか、なんて相談する気だよ。


「御願いだからマジやめて」

「朱詩は萩波の幸せを祈ってないの?!」


だから、王はそんな事は望んでいないって。

寧ろ望んでいるのは……


「朱詩、酷い!!萩波が不憫よっ!」

「なら不憫な夫が幸せになれるように協力して下さい」

「うん!だから協力――……」


ああ、来たんだ。

いつの間にか王妃の後ろに立っている王の姿にボクは王妃から離れた。

女性とも見間違う様な優美な美貌を持つ王はそれはそれは美しい笑みを浮かべていた。

たらりと王妃の額から冷や汗が流れる。


「あ、あああううああ」

「協力、してくれますよね?」


そう言った瞬間、王が王妃を抱え上げる。

それは女性なら夢見るようなお姫様だっこではなく、米俵を抱えるような荷物抱き。


「いやぁぁっ!」

「さあ部屋に戻りましょう。私の好みのタイプについてじっくりと語るので受け止めて下さいね、その体で――」


王ってば本当に容赦がないよね?


どれだけ見た目が優しげでも、内面に秘めている激情は灼熱のマグマよりも熱く激しい。

欲しいものを得る為には手段は選ばない。


王に連れ去られていく王妃の姿を見送りながら、ボクはハンカチをふった。

きっと明日は部屋から出てこれないだろうな。



それから3日後。

あれほど受け取りを拒んでいた隣国から超特急で少女の迎えの使者がやってきた。

何があったのかは知らない。

けれど、王の美しすぎる笑みを見ればきっと何かがあった事は明白だろう。



因みに、王妃様は少女が去った後もしばらく足腰が立たず自室から出て来られなかったとか。




さて、次は誰を観察しようか?




本編で少しだけ出てきた一等書記官の朱詩のお話でした。果竪が追放される前の王と王妃の話を書こうかと思ったら、何を間違えてか書記官の話になったという……。読んで頂ければ幸いです♪

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