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プロローグ
ジュリアは1人、門の前に立っていた。
出迎えも何もありはしない。
小さな麻袋一つを抱えて、ただ門の前に立っていた。
(今日からここが、私の家なのね)
ここに来る道中。
これまでのあらゆることが頭を駆け巡っていた。
まるで嵐が胸の中で吹き荒れているようだった。
しかし、今はいっそ心は凪いでいた。
(どこに居たって、もう同じことよ。帰る場所は、もうないのだから)
そしてジュリアは、門を叩いたのだった。
ジュリアは、ティンバー王国で男爵位を賜るマホガニー家の令嬢だ。
いや、だったと言う方が正しい。
始まりは2年前。
メイプル男爵家の娘、シャーロット・メイプルが社交界に姿を現してから、全てが変わった。
ジュリアは一瞬にして失った。
婚約者も、信じていた未来も、帰る家さえも。
これは、そんな1人の女性が幸せを掴むまでの物語だ。