0001話:「プロローグ、神の空間で召喚された説明を受ける」
「なんでチートスキル貰ったら異世界だけしか救わないのかな? 地球も救えばいいのに」
俺こと勇堂大牙28歳は無職になって数日たった昼間、安アパートの一室でベッドの上でスマホ片手に寝転がりながら呟いた、スマホの中のネット小説は異世界を救った後はそのまま幸せに暮らして終わる物語ばかりだった。
地球に戻れてもチートスキルで救ったという描写は皆無だった。正確に言えば異世界を救った後に地球に戻ってきたところから始まる小説はあるが救われた異世界も魔王を倒したから終わり等、異世界と地球の貧しい人々を救うというのは読んだ覚えがない。
「チートスキルを貰えるなら俺なら両方救うのにな」
本当はこんな馬鹿なことを呟いていないで次の仕事を探すべきだが、今までが忙しかったからもうしばらくダラダラして未読だったネット小説を読もう、幸い時間も貯金もあるしそのうち異世界も地球も救う小説に出会うかもしれない。
『本当に両方救えるなら救ってくれるかい?』
不意に頭の中で言葉が聞こえてきたと思ったら寝落ちしたかのように俺の意識が沈んで瞼が閉じていく。すぐ目を覚ましてみると俺は椅子に座っていて目の前には小さな白くて丸いテーブルと未開に座る青い髪と瞳の美形の若い男、右手側には腰に届きそうなほどの長さの金髪の美しい少女、左手側には薄汚いローブに全身を包んでうっすらと光る両目しか顔が見えない猫背で座る姿が老人を感じさせる三人が座っていた。周りは真っ白で壁、床、天井の境目が解らない不思議な空間で広いのか狭いのかわからなかった。
「初めまして勇堂大牙君、いきなり呼びつけてすまなかったね。僕は地球の神の様なことをしている存在で今はブルーと呼んでくれ。神みたいだけど神じゃないから敬語はいらないよ」
含みのある怪しげな自己紹介を目の前の男が語り出した、その声は頭の中で聞こえた声と同じだった。
「お願い、私の世界を救って!!もう貴方しかいないの」
ブルーが説明を続けようとするのを遮るように右手側の少女が大きな声でしゃべり出した。
「まだ僕がしゃべっている最中だよマリュー、説明は僕がするって言ったじゃないか。ごめんね大牙君、彼女はマリュアス。マリュアスワールドという剣と魔法と世界のスキルの世界の女神で彼女の世界は外から来た邪神の侵略で滅びそうなんだ。君にはスキルを与えるからマリュアスワールドを救ってほしいんだ」
ブルーがたしなめると少女は俯きながら黙るがソワソワして今にもしゃべり出しそうだ。
「神の力があるなら直接神が救うなり、俺みたいな地球人じゃなくてマリュアスワールドの人間に力を与えるのがいいのでは?」
ブルーの説明に一息が入った所で俺は思った疑問を質問してみる。本当はもっと色んな質問をしたいハズだが妙に俺の心は落ち着いている、もしかしたら神の力が働いているかもしれないが無理矢理操られているような悪い感じはしない。
「当然の疑問だね、長くなるから詳細を省いて説明するけどまず僕たち神は神力を使って世界を創り出し、世界は新たな神力を生み出すんだ、解りやすくいえば農家みたいなものだけど邪神は自分達で世界を育てずに力で奪っていくんだ、山賊みたいだよね。それで神も邪神と戦うために神力を使うんだけどマリューは邪神と戦って迷宮に封印し、迷宮から生まれる魔物やアイテムという形で邪神の神力を少しづつ抜き出して、マリュアスワールドの住人が倒して神力を奪い返すんだけど、力を与えられた一部の人間が人に裏切られたり欲望に負けたりして邪神側についてね、彼女の神力が残り少なくなってこのままでは邪神の復活を阻止できない。ここまではいいかな?」
ブルーの説明を聞いて山賊退治の依頼を受けた冒険者が魔物を倒さずに依頼主の農家から略奪する様子を想像した、概ねこんな感じなのだろう。という事は素行の悪い冒険者の尻拭いをする方法は一つ、もっと腕のいい冒険者に裏切らないほどの大金で依頼する事だろう。
「想像ついたかな?君には邪神を倒せるほどのスキルを僕から与えるからマリュアスワールドを救ってほしい、報酬として邪神を倒した暁にはその力を持ったまま地球とマリュアワスールドを行き来できるようにしよう。どんなに時間がかかっても君がアパートから消えた直後の時間に戻すから浦島太郎みたいにはならないよ。肝心のスキルだけど口で説明すると長いからこれは脳に直接概要を送るけどいいかな?」
頷いて了承すると脳内にスキルのリストと概要が浮かび上がる、俺はスキルの圧倒的な性能に出会ってもいない邪神に勝つ自信が沸いてくる。だがまだ疑問もあって未だ一言も発しない左手側のローブの老人?を見る。
「マリュアスの神力が残り少ないのは解ったが、ブルーが何故神力肩代わりして俺にスキルを与えるんだ?それとコッチのローブは今の話に関係あるのかな?」
質問してから気づいたが地球にスキルなんてものは日常的には存在しない、スキルを与えられるのにブルーは地球人には与えないんだろうか?
「なんでって言ったら人助けと言いたいけど簡単に言えば神力の借金だね、実を言うと僕はマリュアスみたいにスキルを作り出す事は出来ないんだ、出来ないというかスキル作成能力を削った分、神力が豊富って感じかな?世界を作り出す神も神力がなければ万能じゃないんだよね。彼女に神力を貸してスキルを作らせて君に与える、邪神を倒したマリュアスワールドは新たな神力を生み出すから僕は利子としてそれをもらい、ついでに地球に戻った君のスキルで地球が救われて新たな神力が生まれるって事だね。大牙君を選んだのはマリュアスワールドだけではなく地球も救ってくれる人物だって彼が見つけてくれたからだね」
彼と言ってブルーの目線がローブの老人?に行く
「彼は僕とマリュアスの仲介役で神力の貸し借りが契約通りに行われるかの取り立て人って感じだね。怪しい見た目をしているけど手数料として彼も神力をもらうから信用して貰っていい。何より、君を推薦してきた人物だしね」
俺を推薦してきたという言葉を聞いて俺は軽く会釈をするとローブ姿も会釈を返してくれた。というかブルーはスキルを与えても問題なく邪神を倒して地球に帰ってくる人間を選定するスキルはないんだろうか?……ないんだろうなあ、その分スキルを削って大量の神力を保持してるんだろうなあ。余計なものは持たないミニマリストかな?地球が邪神に狙われたら神力で別の神を雇うんだろうか?
「何か面白い事を考えていそうだけどソロソロ君の答えを聞かせてくれないかい?ここで説明するにしても脳内に直接情報を送るにしても神力を消費してしまうんだ。一応答えはわかっているつもりだけど君の口から聞かせてくれないと契約完了にならなくてね。もし万が一断るというならこれまでの記憶は消して君の家に戻して第二候補にこの話を持って行くけど」
やや早口で説明したせいか神なのにブルーは息が上がっている様にも見える、もしかしたら神力を消費しているかもしれないが。俺は息の荒いブルーとは対照的に深呼吸をして口を開く。
「異世界で邪神と戦えなんて言われて正直不安だけど俺はやるよ。それが地球の為にもなるって言うなら二つの世界を救うために俺はやる、いややらせて下さい」
敬語はいいと言われていたが途中で席を立って俺は頭を下げて返事をした、異世界どころか地球を救える可能性をここまでお膳立てされて断れるわけがない。
「良く言ってくれた、そうと決まれば善は急げだ。さっそく向こうに転移してもらうから詳しい事はマリューに聞いてくれ、彼女が現地をナビゲートしてくれる。マリュー、約束通り省エネ代わりに担保をもらうよ」
俺の返事にブルーは笑顔になりながら眩しくはない優しい光の球を複数手の平から出して俺に送り、光が消えながら俺の体に取り込まれてそれがスキルになっていくのを感じる、同時にマリュアスからローブ姿の老人?に光が流れ込みマリュアスがドンドン小さくなって人形のようなサイズになって背中から光で出来た蝶のような羽で宙に浮かび、その姿は妖精のようだった。
「いくらスキルが最強でも先立つモノがないとね」
ブルーがそういうと俺に部屋着が光とともに動きやすそうな革の鎧に変わり左腕に丸い盾が、左腰には鞘に入った剣がくくりつけられていた。さらに座っていた椅子までもが変化していきそれは金属で出来た馬の下半身に鎧姿の上半身、ケンタウロスのゴーレム?……いや、馬の下半身が小さくポニーを連想させ、鎧姿も女性的でキャシャな感じでポニタウロスゴーレムと言った所か。
「それじゃあマリュアスワールドと地球を頼んだよ」
ブルーがそう言った横でローブの老人が手が輝き、その光に包まれた俺とマリューとゴーレムは真っ白い空間から消えてマリュアスワールドに転移した。
作者のモチベーションアップの為に評価と感想をお願いします。