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94 対決4


 マルクスとリヒトは負けを認め、静かに国王を見ていた。

 国王は、二人に杖を向けたまま言った。


「実はな、わしはいろいろ知っておる。お前たちは、私の孫なんじゃ。な? 

フリシアの子らよ」

 しばらく、沈黙があった。

「はあ? 何言ってんだ、ニーナは、たしかにフリシアの子どもだが、俺とリヒトは違うよ、フリシアとは血は繋がってない」

 マルクスは、呟くように言って、俯いた。


「やはり、フリシアのことを知っていて乗り込んできたのじゃな」

 国王はマルクスとリヒトを睨む。


「わしはこの国の王だ、魔力は誰よりも強い。私の最大の魔力は見る力だ。私は過去現在のことで、見たいと持ったことは見ることができる。お前たちのことも、見たよ」


 国王は杖を下ろして、マルクスに近づき、しゃがんてその頭に手を置いた。

「お前達は昔から悪戯坊主で、フリシアはいつも心配していた。そして、愛していた。お前たちもフリシアを母親として愛していた。じゃから、お前たちはわしの孫だ」

 リヒトの目が揺らぐ。国王は、マルクスの頭から手を離す。マルクスは、頭を上げない。

「今回の一件も、もとはといえば、海軍に追われ行き場を失った海賊のお前達が、ニーナだけでも生き延びさせるため、私たち王族の元へ還そうと思って計画したのであろう」

 リヒトは目を伏せた。


 国王は、立ち上がり、祭壇の前で寄り添って佇む王族たちに話しかけた。


「お前たちにわしの家族を紹介する。今は亡き我が娘、第一王女フリシアの子どもたちじゃ、マルクス、リヒト、そして、ニーナ。」

 ニーナは、名前を呼ばれて、びくんとした。


「フリシアは、海賊の男を愛した。フリシアが海賊に嫁ぐことは、誰も止めることはできなかった。彼女は、『風使い』だった。『風使い』は、風の魔法使いの中でも強大魔力を持ち、自由気ままに生きる、我が先祖と同じ力を持ったものだよ。ニーナは、フリシアによく似ておる。『風使い』が二代続くことは、王家のなかでも珍しい」

国王はニーナと僕の方を見た。


「知らないものも多いだろうが、我が先祖は、海賊だった。風使いだった。自由気ままに海を荒らして回っていた。いつしか陸に上がり、黒船を封印して、国王になった。でも、ときどき王族には風使いが生まれる。陸の束縛をのがれようとするかのように」

 もう一度、国王はマルクスとリヒトを見た。


「お前たちはニーナを連れ帰って、わしに会わせてくれた。そのことは礼を言う。そして、その褒美として黒船はお前たちにくれてやろう」

マルクスとリヒトが目を見張る。


「……ただし」

 国王は意地の悪そうな顔をマルクス達に向けた。

「今回のやり方は、悪戯が過ぎた。身内とはいえ、強盗まがいは大罪じゃな、さすがに仕置きが必要じゃ」

 国王はマルクスとリヒトの前に歩いていき、二人に杖を向ける。


「向こう5年間、お前らをわしの手元に置く。わしが直々にお前たちを教育し直してやる。」

「なんだって?」

 マルクスが驚いた声をあげる。

「お前たちの命はわしが預かると、言っている。まだまだひょっこのお前らがまとめてかかってきても、わしの魔力には叶わんよ」

 ニヤリと国王は笑う。


「なんだよ、殺さないのかよ」

 マルクスが吠える。

「わしも海賊の末裔じゃ、海賊が陸に縛り付けられるのが一番辛いだろうことは、知っている。5年間は海へは帰れないと思っておけ、お前たちの性根から叩き直してやるから、覚悟しておくんだな」

「ったく……調子が狂うじゃないか…」

 マルクスがリヒトの肩に額をつける。

「仕方ないさ、マルクス、俺らの敗けだし。このじいさんには、敵わない」

 リヒトがマルクスの肩を抱いた。国王は目を細める。


「海賊モルガン一家の者達よ!」

 国王が窓の方へ声をあげる。

「お主らは私の私兵に下れ。さすれば、こやつらのそばにいさせてやる。」

 その言葉を合図に次々と人々が集まって来て、マルクス達の後ろに膝を着いて、頭を垂れた。


「お前ら、逃げろよ、5年だぜ、海へ5年も戻れないんだぜ?」

 マルクスが叫ぶ。

「あんたらがいれば、どこにいても退屈しないからな、一緒にいてやるよ」

 大男が言った。「手がかかるからな、あんたらは」と笑うと、「違いねぇや」と他の男が請け合い、みんながははと笑った。


「さて」

 国王が、僕とニーナの方を向いた。

 にこやかな笑みを浮かべながら、こちらに歩いてくる。

 僕は、座ったまま、ニーナを背中に庇う。

 ニーナも海賊達の一員で、しかも神殿をこんなにも破壊した。

 ニーナにも罰が与えられるんじゃないか。どうやって戦おう。

 僕の心を読んだかのように、国王は目を細めて軽く息を吐く。


「怖がらなくても、ニーナを咎めようとは思っとらんよ。ニーナはまだ、ほんの子どもだ」

 国王はニーナを見て微笑んだ。

「ニーナ、そなたは、わしの孫じゃ、それは知っていたのか?」

 ニーナは頷いた。


「ニーナ、そなたの兄達は私が預かる。そなたはどうする? 兄達と一緒に王宮に来るか?」

 ニーナは、真っ直ぐに国王はを見て言った。

「わたしはアレクと一緒がいいです」

「即答かね、まったく、随分と惚れられたんだな。アレクシスよ」

 僕は、肩をすくめるしかない。


「国王様、わたしは、ずっとアレクと一緒にいると決めたんです」

「そうか、では、アレクと一緒に暮らせるように、ロートレック公爵にわしから頼んでやろうか」

 ニーナが、ぱっと顔を輝かせ、僕を見る。

 僕は、嬉しそうなニーナを見て嬉しくなって、頷いた。

「ありがとうございます、国王様」

 ニーナが立ち上がって国王に駆け寄り、抱きついた。

 国王は驚いてニーナを受け止め、それから、優しく抱き締めた。

「ニーナは、いい子じゃ」




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