93 対決3
ニーナが、左手を上げた。
ニーナの目の前に竜巻が現れる。ニーナが左手を振った。竜巻は4本に別れた。
マルクスが後ずさる。4本の竜巻は、ごうごうと音をたてて、範囲が広く、高くなっていく。
天井に届くとガタガタと建物ごと揺れ始めた。
ニーナがゆっくりと左手を持ち上げる。竜巻が交差して、バリバリバリッ、ドガァァンと、神殿の天井を、突き破った。
「や、やめろ、ニーナ…」
マルクスが、右手を持ち上げると、ニーナ目掛けて金色の稲妻が走るが、素早く走る竜巻に弾かれる。
ニーナが、ゆっくりと左手をマルクスに向ける。このままだと、マルクスが4本の竜巻に飲み込まれる。
当たれば、体が吹き飛ばされるか砕け散るんじゃないか見える速さでごうごうと渦巻く竜巻。
「ニーナ、ダメだ、マルクスを、傷つけちゃダメだ」
ニーナは、目が座っている。僕の言葉は届かない。
ニーナの竜巻が大きくなる。
竜巻どうしがぶつかって、こちらにも風が打ち付ける。
建物の天井が激しく揺れ始めた。このままでは、建物全てが吹き飛びそうだ。
風が強くて、目が開けていられない。
マルクスが吹き飛ばされそうによろめいている。
「ニーナ、聞いて!」
ニーナを止めなきゃ。何考えてるんだ、ニーナ!
僕は必死に体を起こす。体が震えて、息が辛い。
僕は、動く方の片手で、ニーナの頬に手をやり、もう一度、ニーナの目を覗き込んだ。
「いい加減にしないと、怒るよニーナ!」
ぱたっと、風が止んだ。
「アレク…」
ニーナの瞳は、焦点が僕に戻り、また涙が溢れた。
「ニーナ、ダメだよ、兄妹喧嘩で、神殿を壊しちゃ」
僕はマルクスを見る。
「マルクスもだよ、今度やったら許さないからね」
「すまん」
マルクスが小さな声で、謝るのが面白くて、僕は少し笑った。
もう、身体中痛くて辛くて、意識を手放せればいいのに……。
「どれ、ちょっと見せてみなさい」
国王様の顔が見える、なんだか、視界がぼんやりしてきた。
「アレクシス、ちょっと痛いが我慢しなさい」
なんのことだろう。と思うと、肩に激痛が走った。
たぶん僕は、ぎゃあとか叫んだと思う。
あまりの痛さに一瞬気が遠くなる。
次の瞬間、目を閉じていても光が見えて、肩が温かくなり、痛みがすっと引いていった。
目を開ける。
僕は恐る恐る肩を触る。あれ?痛くない。
「アレク、大丈夫?」
ニーナが泣きそうな顔で僕を見ている。
「治癒魔法じゃよ」
僕の顔を覗き混んでいた国王が笑った。
手には弓矢があった。
強引に僕の肩から抜いたんだろう、酷いよ、ちょっとじゃなくて、死ぬほど痛かった。
国王は僕の頭を撫でていった。
「弓矢を止めるのに、自分の体を使うのは、どうかと思うぞ、アレク、もう、懲りたじゃろ」
僕は返す言葉がない。でも、僕には他に方法がなかった。
「なかなか面白かった」
面白いって何?
僕は、国王を恨めしく見ながら、ゆっくり体を起こして、座った。
ニーナが嬉しそうな顔で、僕の体に腕を回す。
国王は、僕と、僕に抱きついて嬉しそうなニーナを、にこにこと見て立ち上がった。
マルクスの方へ向いて歩み寄る。
「さて、海賊の子よ、ニーナは、アレクシスを選んだ。ニーナが手を引くならお前の負けじゃな。お前とリヒトの魔力程度じゃ、ワシには勝てんよ。これからどうする?」
マルクスのほうが国王よりも背が高い。国王が見上げる形になっている。
「どうするもなにも、そうだよ、俺の敗けだ、せっかく王宮に乗り込んだのに、兄妹喧嘩に終わるなんて、様ないさ、煮るなり焼くなりどうにでもしろよ」
マルクスは、しゃがみこみ胡座をかいて腕を組んだ。
「ああ、でも、ひとつやっておくことがある」
マルクスは、窓の方を見る。
「リヒト、お前は手下をつれて逃げろ。それくらいの時間は、もうひと暴れして稼いでやる。お前らは、生き延びろ!」
窓際に立つ数人が、ざわめく。
うち、一人がひょいと飛び降りてきた。マルクスのとなりに座り込む。
「何でそう、勝手なことばっか言うのかな、マルクスは」
リヒトは、頭の後ろで腕を組む。
「俺だってゲームオーバーさ、今回俺がミスが命取りだった。アンリを狙わなきゃ上手く言ったかも。すまなかったね。地獄の底まで付き合うぜ、兄さん」
「お前のムザムザ死にに来るなんてバカじゃねえの?」
マルクスがリヒトの頭をグシャグシャと押さえつける。
「何すんだ、バカはあんたに似たんだよ」
リヒトが、やり返そうとマルクスの頭に手を伸ばす。
「お前たち、緊張感がないな」
国王があきれた声で言う。
「うるせぇよ、ジジイ」
マルクスが国王に毒づいた。
ゴツン。
「いってっ」
杖で殴られたマルクスが頭を抱える。
「口の聞き方から教えなければならんのう」
「何言ってんだ、とっとと首でもはねやがれ、くそジジイ」
ゴツン
「いってえ」
「マルクス、もう少し賢くなろうよ」
リヒトがため息をつく。
「で、国王は、俺たちはここで首を跳ねられるんですか、それとも、裁判を受けられる?」
リヒトが国王を見る。
「お前たちは王宮の神殿にに乱入し、王族を人質にとり、国宝を奪おうとした。これは大罪じゃな」
「そうですね」
「神殿もよくもここまで破壊してくれたもんだ、修復に幾らかかると思う?」
リヒトは肩をすくめる。
「これだけのことをしでかしたんだ、覚悟はできてきるんじゃろう」
国王は、二人に杖を向けた。
僕は息をのむ。
マルクスもリヒトも、杖に怯える様子もなく、静かに国王を見ていた。




