92 対決2
そうだ、ここは神殿だ。
神様。
僕の願いは一つだ。
どうか、ニーナを助けられますように。
もしも願いを叶えてくれるなら、神様、僕は、あなたの言うことを一つ聞く。
だから、僕に、ニーナを救わせてください。
僕は、ニーナを連れて逃げなければならない。
どうする? 剣を持って乗り込む?
辺りを見回す。
それとも、大きな音を立てたり、もしくは、何かをここから投げ落として注意を引いて、そのうちにニーナを逃すとか?
周りを見渡していると、神殿の出口側の天井近くの通路に、兵士が一人、柱の陰にいて、弓矢を番えようとしているのに気づいた。
ニーナたちを狙っている?
ぞっとして心臓が締め付けられた。
僕は自分とニーナの距離を測る。
走って階段を下りていたら間に合わない。
この場所は、建物の3階くらいの高さがある。飛び降りる? 僕が?
下手したら死ぬし、上手くいっても骨折だ。
でも、ニーナに、矢が刺さるところを見るくらいなら。
兵士が弓をつがえるのが見えた。時間がない。
通路の手すりに足をかける。
僕は、思いきって手すりを蹴った。
ニーナを目掛けて飛び降りる。
弓矢が放たれるのが見えた。
「ニーナ!」
気づいて! 弓矢を避けて!
飛んでくる弓矢は、スローモーションのように、よく見えた。
弓矢はニーナの、背中を目掛けて飛んできていた。
よかった、僕は、間に合った。
僕は、ニーナの前で手を広げ、自分の体で弓矢を受け止めた。
肩に激痛が走る。
そのまま床に叩きつけられるのを覚悟した。
が、ふわりと、地面に背中が着いた。
「アレク?」
ニーナは、落ちてきた僕を見て、目を見開いていた。
そして、はっとした表情となり、杖を振った。
ごぉぉぉっと音がして、どがぁん!と、弓矢を放った兵士のいた神殿の一角が、吹き飛んだ。
「アレク、どうして!」
ニーナが、僕に駆け寄る。泣きそうな顔だ。
「ニーナを、止めに、来たんだ。」
僕は、頑張って、体を起こした。肩が熱い。からだが震える。それでも、ニーナを見つめた。
「ニーナ、ダメだよ、君は、盗賊には、なりたくないんだろ? 呪いがなんだっていうんだ。そんなもの、君が、背負うことない。君は自由に生きなきゃ。」
僕は、使える方の手でニーナの頬に触れる。
「……アレクに、……弓矢が刺さってる。いや、いや、いやぁ!」
ニーナは、僕を抱きしめようとして、弓矢を見て、パニックになった。
ごぉっと風が吹き始める。バリバリバリッと、窓ガラスが割れる音がしている。
「ニーナ、やめろ、落ち着けっ」
マルクスが叫ぶ。
ごうごうと風が渦を巻いてきた。
ギシギシと建物が揺れる。みんな吹き飛ばされそうだ。ニーナは、僕の肩を凝視して固まっている。
「ニーナ、落ち着いて」
僕はニーナの頬を押して、その瞳を覗き込んだ。ニーナの瞳は焦点を僕に戻した。パタッと風がやんだ。
「アレク…」
ニーナの目から涙が溢れてきた。
僕はもう一度いう。
「ニーナ、もう、止めよう、黒船は、君には必要ない。君は自分の力で、自分を自由にするんだ。君が海に連れて行くのは、僕だよね。約束したよね…」
「わかった、アレク」
ニーナは、僕の目を真っ直ぐに見た。そして、僕を抱きしめた。
「わたし、手を引くよ、マルクス」
ニーナは、僕を抱えたまま振り向き、マルクスを見据えた。
「何言ってるんだニーナ、ここまで来て、あと一歩なんだぜ。あと一歩でお宝が手に入る。」
「わたしはもう、決めたの。アレクといる。」
ニーナは、マルクスをまっすぐに見て言う。
「こんな、何にも持ってないやつのどこがいいんだ?」
マルクスが僕を指差す。僕は、肩が痛くて熱くて辛い上に、頭に来た。なにも持ってないとは失礼な。確かに、僕は、魔力も力も無いし、足も速く無いけど。
「俺らと来いよ。俺とリヒトと、ニーナ、お前の魔力があれば、そして、この城に眠る黒船があれば、海を統べる王にもなれる。」
マルクスがニーナに手を差しのべる。
「なにも持ってないってどういう意味? アレクは、わたしにたくさんのものをくれたよ!」
ニーナは、僕をギュッと抱きしめた。
「アレクは、わたしにすごく優しくしてくれた。一緒に笑って、遊んでくれた。話を聞いてくれたし、悪いことしたら叱ってくれた。一緒に海に行こうって言ってくれた。わたしは、アレクにたくさんもらったのに、何も返せてない。それでもアレクはいつもそばにいてくれた。今だって、そう。わたしのことを助けてくれた」
ニーナの涙に濡れた頬が僕の頬に触れる。
ニーナは、僕の目を見ながら顔をあげて、意を決したようにマルクスを見据える。
「マルクス、持ってないとか、持っているって何?、力があったら偉いの?、魔力があったらいいの?、権力?、財宝?、お城? そんなものっ」
ニーナの髪が揺れる。ざあっと、ニーナの回りを風が渦を巻き始める。すっとニーナの目が細くなり、鈍い光を放つ。
「いつでも破壊してあげるわ」




