91 対決1
「こんばんは、王族皆さん、儀式の途中にお邪魔して悪いね」
マルクスがゆっくりと横柄に歩いて祭壇に近づく。
のんびりとした口調だが、ドスが聞いている。
「俺は、海賊モルガン一家のマルクスだ。こんな陸まで上がることは滅多にないが、今回はほしいものがあって、来た。俺達は殺しはやらない。あんたらが、大人しく言うこと聞いてくれたら、俺達はすぐ出ていく。あんたらを傷つける気もない」
王族は、しんと静まって、マルクスを見ている。。
「言っておくが、外の雷を起こしているのは俺だ。俺には魔力がある。この室内でも雷は起こせるぜ、その証拠に、警備兵は、みんな痺れて、おねんねだ。もちろん死んでない。でも、あんたらが変な動きをしたら容赦しないからな」
マルクスが剣を振ると、バシンという音がして、飾ってあった銅像が、焦げてひび割れた。
王族の誰かが、ひっという声をあげ、互いに身を寄せる。
「それから、助けは来ないと思ってもらいたい。今、この神殿は、竜巻が取り巻いている。近寄るものは吹き飛ばす。もちろん、ここでも竜巻は起こせる」
その言葉が合図だったように、マントの人が杖を振る。
ごおっと風の音がして、バリンバリンと、僕がいる方とは反対側の天井に近い窓ガラスが割れた。
また、人々が身を寄せる。ニーナが、魔力を使っているんだ。
止めなきゃ。
僕は、リヒト達の後ろ姿を見て、こちらに関心がないことを悟り、周りを見渡す。
無様に縛られている僕には警戒をしていないのか、海賊達の物と思われる剣が散らばっていた。
僕は静かに剣に近寄り、自分の後ろ手の縄を剣に擦り付けた。縄を切ることに成功する。口の布を外し、足の縄も剣で切る。自由になった。
リヒト達はこちらを見ない。そっと後ずさる。
「今、この神殿は俺達の魔力で包囲されている。俺達には、王宮を吹っ飛ばすくらいの魔力がある。大人しく、俺達の言うことを聞いてくれ」
「お前の望みはなんじゃ」
国王の声がした。ゆっくりと歩き、マルクスの前に進む。
「あんたが、国王か、話がわかるな」
にやりとするマルクスは、国王をみる。
マルクスの方が背が高いから、国王を見下ろすかたちになっている、なんて不敬な。
「俺たちの望みは黒船だ。地下にに眠っているだろ? さっき、黙っていただいていこうと思って行ってきたんだが、魔力による束縛が強い。風守りや鎧兵士がは止められるが、本体の結界が解けない。動かせない。あの結界を解除してほしい」
「黒船を手に入れて。何に使う?」
国王の声は落ち着いている。
「なんに使うって、海に出るんだよ! おまえらこそ、何百年も黒船を閉じ込めてたままにして、何がしたいんだ? あれは海でこそ意味がある。俺ら海賊が手にしてこそ、力が発揮できるんだぜ? 魔法の船だ。海を制覇できる。」
「なぜ、お主らは黒船のことを知っている?」
「黒船の伝説なら、海賊はみんな知ってるさ。ただお宝の場所がわからなかっただけだ。俺達は見つけた。だから、頂く。」
マルクスは、国王に一歩近づいた。
「おしゃべりは以上だ。さ、早く結界を解いてくれ、あんたならできるだろ、国王」
マルクスが国王に剣先を突きつけた。
そのとたん、バシンという音がしてマルクスの剣が粉々に砕け、マルクスが後ろに吹っ飛んだ。
ごおっと風が吹き、マルクスを支える。
「おっと、さすがに国王。素晴らしい魔力だね。……そうこなくっちゃ、リヒト!」
体勢を整えたマルクスが、国王を見据えたまま、声をあげる。
すると、突然二本の水柱が床から現れた。
水柱は床を走り、王族が集まって立つほうへ向かう。
その中の一人を取り囲んだ。きゃあっと声が上がる。
アンリが水柱の中にいた。
僕は頭に来た。アンリ王子に、なんてことを!
アンリはせまる水柱を見てうろたえていた。まだ、足だって、包帯を巻いている。
「国王。王族では、あんたが最も魔力があるらしいが、こっちには仲間がまだいるんだ。この水柱は、そこの坊やを呑み込むことができる。早く黒船の封印を解かないと、坊やが溺死するぜ。」
水柱はじわじわと狭くなっていく。
アンリを取り巻く家族が、アンリに近づこうと水柱に手を伸ばす、だが、近づけない。
「おい、あいつらを水柱から引き離せ、危ねぇから」
マルクスが、アンリを助けようとする王族を指差し、マントの人に向かって言った。
マントの人は首を振った。
「いやだよ、なんで? 誰も傷つけないって言ったよね、なんでアンリにあんなことするのっ、アンリを離して、リヒト!」
マントを外してニーナは、リヒトを見上げた。
王族に同様が走る。ニーナのことは、みんな知っている。
「アンリはわたしの友達なんだ、離してって言ってるでしょ、リヒトっ」
ニーナが杖を振る。
ごおっという音と共に、バリバリバリッと、僕らの通路のガラスがすべて割れた。
水柱が消える。ほっとしたようにアンリが周りをみる。家族が駆け寄る。
リヒトたちは身を屈めて風を避けたようで、ゆっくりと身を起こした。
僕は、愕然としていた。
どうしよう、ニーナの正体が、国王にばれてしまった。
国王を襲った一味だなんて、捕まったら、子供でも処刑されてしまう。
たとえ、国王の血族でも、許されないだろう。




