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09 茶会

ニーナを見送ってから、ルナール家のことを考えた。

ルナール家は、財力のあるオーギュスト伯爵家とも交流して、王都で手広く事業を始めるつもりなのだろうか。


そういえば、先日ニーナが必死に覚えていた詩集はオーギュスト伯爵家の長男アランが書いたものだ。

次期当主となられるアランは、僕より7歳上の22歳。

幼い頃から文学に造形が深く、詩集は10代後半に出版している。

僕はアランから直接本をいただいて、とても気に入って暗唱してしまったのだ。

アランは未だに独身なので、貴族のお嬢様がたの人気が高い。

そういえば、まだ、今日はアランにご挨拶をしていなかった。

先ほど父さんと共にオーギュスト伯爵にご挨拶したときには、アランは女の人たちに囲まれていて近づけなかったのだ。


人だかりの多い方を見ると、やはりそこにアランの姿を見つけた。

遠巻きに見ていると目が合う。アランはふと、微笑んで、僕の方へ歩み寄ってくれた。

「久しぶりだね。アレク」

「お久しぶりです、アラン。今日は素晴らしいお茶会にお招きいただき、ありがとうございます。お庭のバラも見頃で素晴らしいですね」

伯爵と父さんは仲が良く、僕が幼いころから交流があったため、アランには弟のように可愛がってもらっていた。

兄のような親しみを感じている。

「そうかい、気に入ってもらえてよったよ。今回のお茶会は、この庭のお披露目もかねているんだ、父がたいそう自慢にしていてね」

「珍しい品種のバラもあるとか…、先ほど皆さんが噂していました」

「ああ、最近知り合った方からいただいて、何でも異国のバラとかでね…。ああ、ごめん、アレク、珍しいひとを見つけた」


アランがふと近づいてくるひとに目をやった。

長身でがっしりと引き締まった体に、黒髪と端正な顔立ち。見るものを惹き付ける、威厳ある風格。

「やあ、久しぶりだね、マルクス」


「お声がけいただき光栄です、アラン様。マルクス・ルナールでございます。本日はこのような素晴らしい場にお招きいただきありがとうございます」

「遠方からわざわざすまなかったね、ルナール公は、おかわりないですか」

「ええ、相変わらず呑気に過ごしています。また、新しいバラが手に入ったから、伯爵様にご紹介したいといっていました」

マルクスが、そういいながら、僕に目を移したのに気付き、アランが僕の方を見た。


「ああ、アレク、紹介するよ、こちらは、マルクスだ。今、この国では右に出るものもない大富豪ルナール家のご子息さ」

マルクスは、穏やかな笑みを浮かべて、僕に礼をした。

「マルクス、こちらはアレクシス。ロートレック公爵家のご子息だよ。この国の財政を掴んでいるお家柄だから、ルナール家とは今後かかわりが深くなるかも知れないね。親しくさせてもらうといいよ!」

アランは、マルクスに親しげに、茶目っ気たっぷりに話す。


「先日は、ありがとうございました、アレクシス様。」

「いえ、こちらこそお世話になりました」と、僕も礼を返す。

アランが目を見開く。

「お二人は知り合いだったのかい?」

僕は頷く。

「はい。僕は今、コンティチーニ男爵に地理学を学んでいるのですが、先日、男爵のお屋敷で、マルクスやご兄妹とお会いしました」


僕の言葉を引き継ぐように頷いて、マルクスがアランに向き合う。

「はい、私どもは今、シモン様の家に滞在させていただいていております。今、アレクシス様にお話しいただいた、弟と妹ですが、よろしければアラン様に紹介させていただけますか」

「君のご兄妹かい! ぜひお会いしてみたいな。」

マルクスが呼ぶと、リヒトとニーナが姿を表した。


金髪碧眼の美形で、スラッと背が高いリヒト。その隣には、リヒトの胸の高さまでしかない小柄な美少女が立っている。ストロベリーブロンドの髪に緑色の目が可憐だ。兄妹とあって、この二人はどことなく似ている。衣装も揃えてあるのか、二人が並んでいると目を引く美しさがある。

「リヒト・ルナールです。お初にお目にかかります」

「ニーナ・ルナールです。お会いできて光栄です」

申し分ない礼の取り方に、アランも顔をほころばせた。


「素敵なご兄妹ですね。今日は楽しんでいただいていますか」

「はい、このような素晴らしい会にお招きいただき、また、心を尽くしたおもてなしをしていただいて、身に余る光栄です」

リヒトが微笑むと、遠巻きに見ていた女性から、きゃぁっという歓声が、聞こえた。口に手をあてて、顔を赤くしている女性が何人かいる。見物人ができてる…。


マルクスは、ニーナの肩に手をやり、

「実は、妹のニーナは、アラン様の詩集を大切にしていて、暗唱までしてしまっているんですよ。今日はアラン様にお会いできると楽しみにしてきたんです」

と、ニーナに優しく微笑んだ。

ニーナは、こくりと頷くと、恥ずかしそうに微笑みながら、目をあげてアランを見た。

「アラン様、私、アラン様の『バラの庭で』という詩がとても好きで、暗唱してしまいましたの。そしたら、兄たちに今日、アラン様にお会いできるから、お聞かせしてみたらどうだと言われまして…」

困ったように微笑みながらおずおずとアランを見上げる様子は、申し分なく可愛かった。

アランは、手放しで喜ぶ。


「それは、素晴らしい!是非聞かせてくれるかい?」

ニーナは、はい、と頷くと、回りの人から少し距離をとって、アランの正面に立った。僕たちの回りには、人だかりができている。みんな、興味深げに少女を見つめている。


ニーナは、すっと、背筋を伸ばすと、目を伏せ、胸に手をおいて、詩を朗読始めた。

透明感のある声で静かに始まった詩は、後半に向け気持ちが込められていく。

最後は軽く両手を広げ、詩の言葉どおり、まるで神に語るように宙を見上げて終わった。

一陣の風が吹き、ニーナの髪とドレスを揺らす。

静まり返った会場が、ワッと湧いた。


ニーナははっと我にかえったように、顔を真っ赤にして、固まった。

「わたくしったら、恥ずかしいわ」小さな声で言う。


「素晴らしかったよ、ニーナ」

アランが、少し高揚した顔で、ニーナを褒め称えた。そして、マルクスに向かい、

「今日は素晴らしい体験ができたよ、マルクス。ぜひ今度、個人的にうちへ遊びに来てくれないか? 君たち兄妹に、今日のお礼がしたい」


マルクスが極上の笑みで答えた。

「はい、喜んで」


瞬く間に、アラン様とマルクスたち兄妹がそれぞれ人々に囲まれた。アランの詩を称賛する声が聞こえる。

ニーナは、人々に誉められて、笑顔を張り付かせて固まっていた。リヒトには女性が群がる。

僕は人だかりから押し出されてしまった。


僕は、なんだか、納得いかなかった。

ニーナは素晴らしかった。詩の暗唱は、申し分なく可愛かった。


でも、マルクスは、アランになんて言った?

ニーナが、まるで好きで詩集を暗記したみたいな言い方だった。

たった1日で、詩集1冊を覚えろと命令していたくせに!

まるで、伯爵家に取り入るため、ニーナを利用しているように思える。

商人とはそういうものなんだろうか。僕の考えすぎなんだろうか。

なんとなく、遠巻きに3兄妹をみて、モヤモヤとしたので、場所を離れることにした。

ありがとうございます!

こんなに読んでいただけて、感謝しかありません。

忍耐強い貴方に、幸運あれ!

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