85 ニセモノの館3
「わたしのアレクに手を出して、生きてられると思ってんの?」
ニーナが、男たちにジリジリと近づき始める。
男たちは、怯えながら、少しずつ下がっていく。
「や、やめてくれ、お嬢…」
「ニーナ、やめろ!」
リヒトが走ってきた。
リヒトがニーナに手をかざすと、ざあっという音と共に、地面から水が勢いよく吹き出てきて、柱状になり、ニーナの周りを包んだ。
「リヒトさん、何をしてるんですか!」
リヒトも魔法使いなんだ!
ニーナが危ない。
僕はニーナに駆け寄ろうとした。
ニーナが軽く手を振る。バシンという音がして、水柱が吹き飛んで、消えた。
リヒトよりニーナの魔力のほうが強い?
ニーナは、男たちに向けて、ゆっくりと左手を上げた。
ごおっと音がして、竜巻がニーナの前にできていた。
竜巻はだんだん大きくなる。男たちに迫っていく。
「おい、アレク。お前、ニーナをとめろ!」
耳元でリヒトの声がした。振り向くと、リヒトの険しい顔があった。
「あのままじゃ、ニーナがみんなを殺しちまう」
冗談を言っている顔には見えない。確かに、ニーナの魔力が暴走しているように見える。
「ニーナ、やめるんだ」と、僕は声を張り上げる。
ごおっという音は続いている。
だめだ、ニーナは、目が座っていて、聞いてない。
竜巻の回転が早くなる。あんなのに巻き込まれたら、一貫の終わりだ。
僕は、ニーナに駆け寄り、強く抱き締めた。
「やめろっ」
ニーナの体から、すっと力が抜けた感じがした。
ふっと、竜巻が消えた。
僕はニーナの肩に手を置いて、顔を覗き込む。
「ニーナ、ごめん、遊びに来る約束が遅くなってしまって。誰も家にいないみたいだったから、勝手に庭に入ってしまったんだ。ほんと、ごめん」
ニーナの焦点があってくる。
「だから、僕は叱られても仕方がないんだ、あの男の人たちは、まだ、僕に何もしていない」
まだ、だけど。
始末して埋めるとか言っていたけど。でも、まだ、だ。僕は生きてる。
「ニーナはそんなに怒らなくてもいいんだよ」僕は、頑張って笑みを作った。
「アレク……、ごめんね、うちの手下たちが酷いことして……」
ニーナは僕に抱きついてきた。柔らかいニーナに癒される。
けど、今、ニーナ何て言った?
「手下」って何?
「お前ら」
リヒトの声がして、頭をごつんと殴られた。
「いてっ」
僕だけじゃなくて、ニーナもゲンコツされたらしく、頭を抱えている。
「リヒトぉ」
ニーナが上目遣いでリヒトを見る。
「お前ら、これ、どうするんだよ。小屋を吹き飛ばしやがって。マルクスに何て言うんだ。二人の責任だからな」
リヒトが腕組みをして、僕らを睨んでいた。
「だって、あいつらが、アレクをいじめたから」
ニーナは、まだ呆然と立ちすくんでいる男たちを指差す。
「お前ら、なんでアレクに手を出した」
リヒトが、男たちに声をかける。
「そのガキ…いえ、アレクシス様が、こいつらが明日の計画の話をしていたのを、盗み聞きしてたらしいんです」
さっきガンツと呼ばれていた大男が答えた。僕はムッとする。
「僕は盗み聞きなんてしてません! 偶然、聞こえてしまったんです」
リヒトに、また殴られた。頭を抱える。すごく痛い。
「リヒト、二回もアレクを殴ったっ」
ニーナが怒った声を出す。
「こいつは盗み聞きしてたんだぜ、俺らの計画を」
「だから、盗み聞きじゃないんですって」
「おまえっ」
リヒトがまた腕を振り上げる。僕は殴られる覚悟をする。
ごおっと音がして、ニーナの後ろに竜巻ができていた。
リヒトは、手を下ろすと、僕をすごく険しい顔で睨んでから、ふと、僕から目を反らした。
「ニーナ、アレク、ちょっと来い。」
僕は腕を引かれて、ニーナと共に屋敷の中に連れていかれた。
応接室の、ソファに座らされる。
「ったく、お前はどうしてそうホイホイと、危ないところに首を突っ込んでいくんだ? さっきだって、もしニーナが帰ってくるのが遅かったら、お前は殺されて埋められていたかも知れないんだぜ」
「どうしてですか。ルナール家には、どうしてあんな乱暴なひとたちがいるんですか。風体の悪い人たちと近づけるのは、ニーナの教育上よくないんじゃないですか?」
僕の言葉にリヒトとニーナは、お互いに顔を遇わせた。
「そうか、そうだな。お前は貴族のお坊ちゃんだもんな。そういう発想になるんだな」
リヒトは、考え込んでいる。
「お前、どこまで聞いた?」
突然の質問に戸惑う。
「あいつらの話を聞いたんだろ?」
「だからちゃんと聞いてませんって。なんであんなに怒るのか、訳がわからない…。」
僕はさっき聞いた言葉を繋げて考えてみた。
あいつらの風体と、僕を捕まえようとした行動…。
王宮、国王、クロフネ……黒船。
「まさか……リヒトさん、あの乱暴な人たち、王宮に忍び込んで、黒船って、例の魔力の源という不気味な船を盗み出すつもりかも……」
僕は、リヒトの目を見る。
「そんなのダメだよ、止めないと! 国王のものを盗むなんて、大罪です!」
リヒトは、ため息を着いた。
不機嫌そうな顔で、僕を見る。
それから、自分の隣に座るニーナの顔を覗き込む。
「ニーナ、どうする? コイツはもう知りすぎた。黙って帰すわけにはいかない。わかるだろ」
ニーナは、目をつぶっていた。悩むような表情だ。
「ちょっと待ってくださいよ、どういうことか説明して欲しい」
僕は不安が渦巻き始めた。
「そういえば、ニーナ、手下って何? 商人なんだろ、君たちは。手下って言葉は、盗賊とか海賊とか、物騒な人たちの使う言葉じゃないか!」
「だから、その物騒な人たちなんだよ、俺らは!」
リヒトが、ふんと鼻を鳴らして腕を組み、僕を見据える。
「お前は、まだわからないのか? 王宮から黒船を奪おうとしているのは、俺やニーナなんだよ。お前が乱暴な人たちと呼ぶあいつらは、俺らの手下さ」
え?
「俺らは、元海賊。海を荒らして回っていたモルガン一家なんだよ。ルナールは、仮の名前。ルナールのおっさんを脅して、養子になってやったんだ」
「リヒトっ」
ニーナがリヒトの袖を引っ張る。
「ニーナ、もう隠せないよ。こいつは知ってしまった。もう、こいつは、俺たちに取り込むしかない。こいつの性格、知ってるだろ? 自分で選ばせるしかないよ、俺らと来るか、死ぬか」
「な、何いってるんですか?」
「全部、話してやるよ、お前に」




