82 国王3
「アンリ様、足の具合はいかがですか?」
「マリーが手当てしてくれたのがよかったみたいで、痛みはだいぶんいいよ。でも、歩き回るのはしばらく無理だと医者が言っていた。ごめんね、みんな、僕のせいで舞踏会は開けなくなってしまったよ」
「仕方ないですよ、お体のほうが大切ですから」
国王のお茶会の後、僕らはアンリの部屋に集まって、4人だけで話す機会を得ることができた。マリーも同室している。
アンリが僕にお礼を言うため、僕たちだけでゆっくり話がしたいからと、使用人達も部屋から追い出した。
国王とのお茶会は、国王がほとんどお一人で話して終わった。
ニーナは嬉しそうにスイーツを食べていたけど、王子達も、もちろん僕も、ずっと固まったままだった。
国王は結界を破ったくらいでは罰しないと言っていたけど、人形のことは許さないと言っていたから、マリオネットを壊した僕は、迂闊にしゃべることができなかった。捕まえられて牢屋行きはまっぴらごめんだ。
本当はフリシアのことが聞きたかったけれど……
王子の怪我のため、予定は大幅に変更されて、僕たちは明日の朝、家に帰ることになった。
今夜、皇太子ご一家と食事をご一緒するのが最後のイベントだ。
「ニーナは、リヒトに厳しく叱られたのでは? 大丈夫ですか」
アンリの言葉にニーナは、肩を落とす。
「あんまり聞かないで、思い出したくない」
うんうんと僕たちは頷く。
「ルノーは、リヒトの用意した言い訳で、信じてもらえたの?」
「表向きは、そうだね。でも、さっきお祖父様がおっしゃったように、僕らが結界を破ったことは、父上も母上もきっと知ってるだろうから、ま、当分、僕らが夜寝るときには、誰かが僕らを見張っている」
……可哀想に、王子は大変だね。
「リヒトは帰ってしまったんですね。もっと話がしてみたかった、素顔のリヒトと。ニーナやリヒトを見ていると、商人は快活に自由に生きられて、楽しそうだなって思いましたよ」
「そうだよね、僕らはもうすぐ星祭があるから、これからその準備に追われる。自由はないよねー。星祭は僕ら王族の先祖を祀るんだけど、儀式の作法を練習させられるんだ。神殿には王族しか集まらないんだから、他の人が観ていないなら適当にやればいいのに」
「ルノー、そんなこと言っているのが父上達の耳に入ったら、大目玉だよ」
ルノーは、マリーに目をやる。マリーは俯いたままだ。
「誰にも言わないでね、マリー」
こくんとマリーは頷いた。
「星祭は、神殿に王族しか集まらないの?」
ニーナが不思議そうに言う。
「そう。星祭だけだよ、そんなの。儀式の間は王族だけになる。お祖父様の魔力の関係なんだって。儀式が終わると、国の役人や来賓がまた神殿に戻ってくる。アレクの父上も参加するよね?」
そうかもしれない。でも、僕はあまり知らない。
「僕たちは、星祭っていうと、王宮前の川沿いにお祭りのお店が並んで、移動遊園地がきて、花火の時のような賑わいになるってことしか知らないですね。爆竹を鳴らして大騒ぎをする……小さい頃、マリーと一緒に行ったよね、ほら、クレマンに連れて行ってもらった」
マリーを見ると、ふっとマリーが笑った。
「あの時は、坊っちゃまは星祭に行きたいと言い出して、誰も連れて行ってくれないとわかると、一人で家を抜け出して行ってしまって、星祭の会場でクレマンさんに捕まったんですよ。私が坊っちゃまを発見したんです。連れて行ってもらったのではないですね」
「そ、そうだったっけ?」
「言い出したら聞かない問題児ですからね、坊っちゃまは。ご自分では自覚がないようですが」
「そーゆー言い方ってないと思うよ、マリー!」
他の3人に笑われて、僕はムッとして黙る。マリーめ、あとで覚えとけ。
「今日、お祖父様の前の花瓶を割ったのは、マリー?」
アンリが突然言った。
「君、魔女だね?」
僕はアンリの顔を見る。アンリは穏やかな顔でマリーを見ている。悪意はなさそうだ。
「アンリ様、私には、手に触れずに花瓶を割ることはできません」
「そう?」
アンリが首を傾げてマリーを見ている。
「あ、あの、アンリ様、いったいなんの話をしてるんでしょうか」
僕はマリーの窮地を救うべく声を上げる。マリーの魔女裁判のためにこのメンバーだけになったのではないはず。
「ああ、ごめん、いいよ、もうわかった。マリーじゃないなら、それでいい」
もうわかったって、ニーナがやったことが分かったのだろうか。
アンリは、ふっと力を抜くように笑った。
「アレクもニーナもマリーも、明日には帰ってしまうんだね、また日常の始まりだ。……僕は、隠し部屋探しがとても楽しかったんだ。もう一度みんなで探検に行きたいな、王宮なんか飛び出して、もっと広い世界へ」
「アンリ様……」
「僕はニーナともっと一緒にいたかったな。また、会いに来てくれる?」
「ルノー……」
ニーナは、ルノーに駆け寄って、ギュッとルノーを抱きしめた。
ルノーは目を白黒させている。
「ニーナ、僕とも挨拶してもらっていいですか」
アンリが恥ずかしそうにニーナを見る。
ニーナはニッコリ笑って、アンリのもとへ駆け寄った。




