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81 国王2


「おう、よく来てくれた! 可愛い孫達よ! そして、ようこそ、アレクシス、ニーナ!」

 国王は、ご機嫌で、元気そうに笑いながら、部屋に入ってきた。


 僕たちは立ち上がって出迎え、礼をする。


「まあまあ、今日は堅苦しいことはなしだ。座りなさい」

 僕らも国王の合わせて笑顔を作ろうとするのだけれど、アンリでさえも笑顔か引きつっている。きっと僕も。

 ルノーもニーナも、それは笑顔じゃない。

 

「今日は、とっておきのスイーツを準備したんじゃ。ニーナがスイーツ好きと聞いておったからな」

 テーブルにスイーツが運ばれてくる。

 ワンプレートにプティフールが並べられ、アイスクリームが二つ添えられている。見た目に美しく、絵画のようだ。

 ニーナが目を輝かせて、食べようとしたが、みんなが食べないのを見て、スプーンを置いた。

 

「なんだ、そなた達、今日は、元気がないな」

 国王が不思議そうにいう。

 僕らは、無言で、引きつった笑みを浮かべたまま、国王をみている。

「そういえば、アンリとルノーは、昨夜一晩部屋に戻らず、随分、母上を心配させたらしいの」

 ぎくりとアンリとルノーが固まる。

「たまには、そういう横着なことをやって、親を心配させるくらいが元気があってよろしい! はははは」

 国王の言葉に、どう反応していいか分からない。


「アンリの足を手当てしてくれたロートレック公爵家の侍女がおったらしいが…」

 国王が壁際に立っている数人の使用人を見渡し、マリーに目を止めた。

 ……なんで、マリーってわかるんだろう。初対面のはずなのに。


「そなた、名をなんという」

「はい、マリー・フォンテーヌと申します」

 マリーは目を伏せたまま名乗る。

「礼を言うぞ、マリー」

「もったいないお言葉でございます」

 小さな声でマリーが応えた。


「アレクシス、あの侍女を王家で雇いたいが、どうだ?」

 突然の国王の言葉に、僕は目を見開く。

「それは困ります!」

 僕は即答してしまい、ハッとして、

「……僕の一存では決められませんから」

 と付け加えた。

 国王はニヤリと笑う。

「そうか、そなたが困ることはできんな、そなたはわしの孫達の命の恩人だから。はははは」

 国王が笑っても、僕は全然笑えない。早く帰りたい。


「ところで、そなた達、この国には魔力を持つものがいることは知っているか?」

 

 心臓が止まりそうになる。

 国王は何が狙いなんだろう。

 ニーナやマリーを捕らえること?

 それとも、魔力の源とリヒトが言った黒船を見てしまった僕とニーナを捕らえること?


「実はわしには魔力はあるんじゃよ」

 それは、全国民が知っています。僕はテーブルの上のスイーツを眺める。


「この国の魔法使い達の魔力には、大きく二つに区分できる要素がある。一つは自然に関する要素だ。風・水・火・土など、自然を操り、その力を増強する魔力。もう一つは人間に関する要素だ。過去や未来を見る目を持つものや、人の考えていることが分かる耳を持つもの、その口で人を操ることができる者もいる。わしは、この王国で魔力を持つものを集めている。集めた者は、国のために働いてもらっている、ちゃんと教育を施してな」


 そうか、魔力がある者が、国王に捕まったからと言って、牢屋に入れられたり殺されたりするわけじゃないんだ。少し安心した。


「この王宮の中では、わしの魔法で、わしが知らない者が魔力を使ったら、探知できるようにしておる。結界を張り、誰かが立ち入ったらすぐにわかるようにしている場所もある。……しかしね、どうやら、一昨日の夜と昨夜から今朝にかけて、いくつか結界を破ったものがおるようなんじゃ。まったく、王宮のタブーを破ろうなど、命知らずもおったもんじゃな。捕まえたら牢に放り込んで仕置きをしてやろう思っているんだが……」

 

 パリン。

 と音がして、テーブルの真ん中にあった花瓶が、割れた。

 花瓶は真っ二つになって、花がパタンとテーブルに落ちた。

 花瓶の水がテーブルに流れ落ちる。 

 え? 魔法?

 ニーナの魔法かな?風は吹かなかったけど。

 でも、国王の前で魔法を使うなんて!

 

「おっと、脅かしすぎたかな……」

 国王がひとりごちてから、笑いはじめた。


「すまんすまん。わしも、結界を破られて、その上、人形を壊されたから、ちょっと腹を立てていたんじゃ。お前さん達を脅しすぎたようじゃな。安心しなさい。結界を破ったくらいでは、罰したりはせんよ。……人形のことは許さんが。……しかし、今、花瓶を割った者は、魔力をコントロースする力が身についておらんな」


 国王が、手を振ると、花瓶が映像を巻き戻すように元の形に戻った。花も水も吸い込まれるように元に戻っていく。

 すごい。これが、魔法なんだ。


「この国の国王は、王族の中で、最も魔力が強い者がなる。現国王の直系が、そうなることが多いがね。知っているか? ……アレクシス、そなたも王族の一員なのだから、可能性はある」

「いいえ、僕には魔力はありません」

 僕は即答する。ご冗談を、国王様。

 僕なんて、王族って言っても端くれです。


「今はもう、魔力の強いものは、生まれなくなったんだよ。アレクシス」

 国王は僕に優しそうな目を向ける。それから、ニーナに目をやった。


「わしには、娘がいた。次期国王と目されるほどの魔力を持っていた。しかし、ずいぶん前に亡くしてしまった」

 国王は寂しげな目をしている。ニーナは、戸惑いを浮かべ、国王を見ていた。

「もしも娘に子どもがおり、その子が魔力を持つのなら、将来の国王候補として育てたいと思うのは、親のエゴだろうな……」


 フリシアのことだ。亡くした娘。国王はニーナを見ている。

 ニーナはやっぱりフリシアの娘なんだ。

 ……将来の国王候補になるかもしれないんだ。


「あの、国王様、質問をお許しいただけますか」

 ニーナが突然口を開いた。

「おお、ニーナ、言ってみなさい」

 国王は嬉しそうに答える。

 ニーナは、真剣な顔で言った。

「このアイスクリーム、溶けちゃうんで、もう、食べてもいいですか?」


国王は、一瞬キョトンとしてから、笑い出した。

「そうか、すまない。早くお食べ!」

「ありがとうございます!」

 ニーナは嬉しそうにスプーンを手にして、アイスクリームを口に運ぶ。

 ふにゃっと幸せそうな顔になった。

 多分、ニーナはアイスクリームが気になって、国王の話なんか聞いてなかったんだろう。


 僕らはニーナの幸せそうな顔を見て肩の力が抜け、それからは、スイーツを堪能することができた。

 


 


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