79 王国の秘宝4
「ニーナ、もういいぜ」
リヒトが言うと、ニーナは頷き、手を軽く振る。
船から黒い風が吹き始め、瞬く間に風は渦を巻き、船を飲み込んだ。
轟々と渦巻く黒い風で、黒船は見えなくなった。
「リヒト、ニーナ、説明してくれ。あの黒い船が、呪われた船と君が言った、あの不気味な船が、この国の秘宝とは、どういうことなんだ? 今、我々は、国の秘密に触れているのか?」
オスカー先生は戸惑いを隠さずにリヒトに聞いた。
「そうですね、黒船は、その存在を知ることすら許されないものです。この国の、つまりは国王の、魔力の源ですからね。」
リヒトは、薄く笑う。
「では、なぜ、君はそれを知っている?」
「今、ここで、その説明をしている時間はなさそうです。そろそろ、鎧兵が復活する。急ぎましょう。王子達を連れて、ここを出ないと」
「リヒト」
オスカー先生がリヒトの肩を掴む。
「オスカー様、後程、ちゃんと説明します。今は、王子やこの子達の安全が優先でしょう」
リヒトは真っ直ぐに先生を見て言った。
オスカー先生は、頷いて、リヒトから手を離す。
鎧兵は、まだ、バラバラと通路に散らばっていた。
僕らはそれを通り越し、王子達の待つ、通路へと急いだ。
王子達はマリーと一緒に、僕らを待っていてくれた。
アンリは、捻挫した足に添え木をして包帯を巻く応急処置がされており、顔色が戻ってきていた。
「皆様、ご無事でお戻り何よりです」
マリーが僕達に頭を下げる。
「マリー、ご苦労だった」
オスカー先生がマリーに声をかける。
「アンリ様は、私の背中におぶっていきましょう。ここを早く出たほうがいい」
リヒトが言って、アンリはリヒトの背中に乗った。
みんなで足早に、出口へ向かう。
リヒトは意外にタフで、王子をおぶっているのに、長い螺旋階段を息を切らさず登って行った。
入り口だった赤い絨毯の部屋に戻ると、昼間の日の明るさに安心したのか、王子達は床にへたり込んだ。
リヒトが膝をついて、アンリとルノーに視線を合わせる。
「今日、お二人が迷い混んだ場所は、王宮の禁忌に触れる場所です。その存在を知るだけで、殺されてしまうかもしれない。王子とて例外ではないでしょう。今日のことは、夢でも見たと思って忘れてしまったほうがいい。お二人は、夜に王宮を散歩していて、アンリ王子は転んで足を捻挫しまった。足を休めるために話し込んでいるうちに、疲れて眠ってしまったことにしましょう。そして、私たちに発見された。どうですか?」
アンリとルノーは神妙な顔で頷いた。
リヒトは、すっと立ち上がると、ニーナの頭に手を置いた。
「今回のことは、うちのニーナがお二人を煽ったせいもあると思います。本当に申し訳ありませんでした。ほら、ニーナ、お二人に謝って。」
「アンリ様、ルノー様、危険な目に遭わせて、ごめんなさい。」
ニーナは、みんなの前で頭を下げた。
「いえ、今回は僕たちが勝手にしたことです。ニーナは、悪くない」
アンリが慌てる。
「いいえ、ニーナが言い出さなければ、こんなことにはならなかった。これから、こいつにはきつくお灸を据えておきますので、どうかご容赦ください。では、失礼します。」
そういって、頭を下げると、リヒトは、ニーナの手を引っ張って、さっさと部屋を出ていってしまった。
僕とオスカー先生は顔を見合わせる。
ひとまず、王子達の無事を関係者に知らせなければならない。
僕が王子の侍従を呼びに行き、それから、王子達が見つかったと大騒ぎになった。
僕らは、皇太子妃殿下をはじめ、たくさんの人にお礼を言われ、くたくたになって、やっと遅い昼御飯にありつけた。
「オスカー先生、ニーナ大丈夫でしょうか」
僕とオスカー先生は、昼食後、僕の部屋で紅茶を飲んで休憩していた。
今日は、僕らと国王とのお茶会が夕方に予定されていた。王子たちの事件があり、予定が大幅に変更されけれど、お茶会は開催されるようで、それまでは自由時間となっていた。
「リヒトさん、ニーナに厳しそうだから、叱られて泣いてないかなぁ」
「ニーナが、心配かい?」
「ええ。泣き虫だからニーナは。」
オスカーはふっと笑う。
「まあ、ニーナにはいい薬じゃないのか?」
「そうかなぁ」
でも、泣かせるのはかわいそうだ。
「君は、自分の心配はしないのかい?」
「自分って、僕ですか?」
僕に何かあったっけ?
「君は時々自分に都合の悪いことは忘れるのかな? 今回の件は、君達が、夜に王宮内を探検して回ることに、王子達を巻き込まなければ、こんなことにはならなかったんだよね?」
「え、えーと、一応、僕は昨日、王子達も止めたんですよ、夜中に王宮をうろつくのは危険だって。ほら、昨日の朝、先生に言われたから。でも王子達は、ご自身の判断で探検に行かれたんだと……いうのは、ダメですか?」
汗が出てきた。先生、目が怖い。
「一昨日の夜の行動が、今回のきっかけなんだろう? 一昨日の夜は、どこに行っていたんだい?」
「えーーーっと」
「喋るまで許さないからね」
「……そんなぁ」
「今日は、図らずも王宮の禁忌に触れてしまった。公爵家に帰ったら、君の父さんと、今後のことを話さなければならない。君たちを王宮から守るためにもね。公爵の地位があっても、タブーに触れるのはまずいことなんだ。わかるだろ? 黒船のことは……リヒトには、まんまと逃げられたからよくわからなかった。あいつは、そのうち、力尽くでも捕まえて、話をさせてやろうと思っている。」
そうなんだよね。リヒトは、あれだけ後で説明すると言いながら、何も言わずにいなくなった。ずるい。僕だって、今すぐここから逃げ出したい。
「ああ、そうだ、マリーも捕まえて、一昨日のことを詳しく聞かないと」
先生はすっと立ち上がると、ドアからそーっと出て行こうとしていた赤毛の侍女の肩を掴んだ。




