78 王国の秘宝3
「待て、危なくないのか」
オスカー先生がリヒトの背中に言う。
「結界は一つだけでした。たぶん、今のやり方がた正しかったんだ。しばらくは、大丈夫ですよ」
リヒトは振り向かずに前に進みながら、返事をする。
僕らは、リヒトの後に続く。
「マリオネットと言ったか、あの鎧の軍団にあったことがあるのか」
「ああ、昔、行ったことのある島で、同じような仕掛けがあった。あの鎧は、時間が経つと復活する。強力な魔力がないとあの仕掛けは作れない。さすが、王宮ですよ」
「君は一体……」
「さあ、見えてきましたよ、ホールだ!」
通路が途切れていた。
広い空洞が目の前に現れた。
天井は、僕らのいる場所と高さは変わらないが、下は、見下ろせないほどに深そうだった。
落ちたら命はない。
風が轟々と渦巻いている。中心にあるものを覗き込むことができない。
気を抜くと、後ろに飛ばされそうだ。
「なんだ、この場所は」
オスカー先生が風を手で顔を風から守りながら言う。
「風の中心の姿が見たい。ニーナ、風を止めろ」
僕は、リヒトの言葉に耳を疑う。
「ダメですよ、リヒトさん、王宮で魔法を使ったら!」
「お前、どうして、ニーナの魔法を知っている?」
リヒトが僕をひと睨みしてニーナを見る。
「ニーナ、どういうことだ!」
「わたしにも色々都合があるの!」
ふんとニーナは横を向く。
「魔法って、どういうことだ、アレク、君まで……」
オスカー先生が、僕らの顔を見比べる。
「リヒト、君たち兄妹は、何者なんだ? 魔法にも詳しい。この国では、魔力は王のものだ。王の許可がないものは使えない。知っているのか?」
オスカー先生が問う言葉には、戸惑いがある。
「後で、ゆっくり説明させていただきます。でも、今は時間がない、鎧兵が復活する前に、確認しなければ」
リヒトは強い眼差しでニーナを見下ろし、凛とした口調で告げた。
「風を止めろ、ニーナ、これは、命令だ」
ニーナは、頬を膨らませて、リヒトを睨み付ける。
「分かったよ!」
吐き捨てるようにいうと、足を踏み鳴らす勢いで歩き、僕らの先頭に立った。
ニーナは、スッと背筋を伸ばす。左手の掌を風の中心に向けてかざした。
渦巻く風が弱まっていく。吹き出している中心部分に、逆に吸い込まれていくように。
風の中心が見えた。
黒い船だった。
3本の帆柱があり、縦帆で帆の色も黒い、小型の帆船だ。
20メートルほどの大きさだろうか。
船の下には、水が無く、棒のようなもので支えられて設置されている。
幽霊船かと見紛う程に、古く崩れそうな船が、不気味な黒い輝きを放ち佇んでいた。
「やったな、ニーナ、お手柄だ! たどり着いたぞ!」
「わたしの手柄だよ、リヒト」
「ああ、わかってるよ、褒美は、お前のものさ!」
「なんの話ですか?」
興奮した様子で、船を見下ろすニーナとリヒトに、僕は不安を感じた。
「あの不気味な船は、何なんですか?」
「この国の秘宝だよ。三百年前に大魔法使いの魔力を封じ込んだ、呪われた船。この国の魔力の源さ」
リヒトが妖しい輝きを持った瞳で、僕に告げた。




