74 王宮迷走7
ドアに手をかけると、ギーっと音を立てて開いた。
部屋の中には、一面に赤い絨毯が敷いてあり、高級なテーブルと椅子が並んでいる。会議室のようだ。でも、ホコリが積もり使用されていないのが分かる。
「アンリが暖炉の中に抜け道があるって言ってたけど、…暖炉、どこだろう」
ニーナがキョロキョロしている。
みんなで探してみると、部屋の奥には暖炉のモチーフがあった。
でも、大理石でできていて、押しても動かない。昨日の祭壇のようにはいかない。
「どうやって入るんだろう」
こんこんと叩いてみる。開きそうにない。
「違ったのかなぁ」
僕は暖炉の回りをポンポンと押していく。
突然、ガクンと音がした。僕は驚いて暖炉から飛び退く。
「あ、わりぃ」
リヒトが暖炉の上にあった置物を傾けていた。それがスイッチだったらしい。暖炉のモチーフの大理石の部分がゆっくりと開いて暗闇が見えた。人が通れそうだ。
「リヒト、すごい!」
リヒトとニーナがハイタッチしている。
「ニーナは、ここで待つか? 危ないかもしれないが」
オスカー先生がリヒトを見る。
「ああ、こいつは大丈夫ですよ。むしろこういうとき役に立つように仕込んでありますから」
ニーナの頭に手をやりながら、なんとなくリヒトは楽しそうだ。ニーナも、オスカー先生を見て、にっと笑う。
「そうか」
オスカー先生が僕を見る。僕は頷いた。
「灯りが必要だな」
暗闇を覗き込んで、先生が言う。
「ございます」
マリーの声がした。
マリーはランプを二つ差し出す。すでに灯りが灯してあった。
「お前、ロートレック公爵家の侍女か?」
リヒトは、マリーの存在に、今、気づいたようだ。
マリーは「はい」と小さく返事をして下を向く。
「なるほどね」
リヒトはマリーをジロジロ見た。
「リヒトさん、マリーは僕の使用人です。そんなふうに見るのはやめてください」
「すみません、興味深い方だったので、つい。失礼したね、お嬢さん」
リヒトは美しい笑顔をマリーにむけた。
マリーはチラッと目を上げてリヒトを見て、興味なさそうに目を伏せた。
ちょっと、待って、興味深いってどう意味?
マリーは僕の家の侍女だけど、僕にとっては幼なじみで、姉さんみたいな人だ。
リヒトはやっぱり女好きで、マリーを狙っているってこと?
マリーは、髪は赤毛で、年齢よりも幼い顔立ちをしているけれど、確かに、可愛い。前髪は目に届きそうに長く表情が読みにくいけど。
僕は、じーっとリヒトを見る。マリーに変なことしたら許さないからな。
リヒトは、そんな僕にニヤリと笑って見せる。
「行こうか」
オスカー先生から、隠し扉の中に入っていき、僕が後に続く。中は暗い。入り口は狭いが、中に入ると立って歩ける高さがあった。階段が下へと続いている。
階段は長く続いた。昨日の避難経路のように真っ直ぐに続くのではなく、螺旋を描くように下へ降りていく。
長く階段を降り続けると、地下へたどり着いた。地下はほんのり明るい。
広い通路があった。昨日の避難路の倍の広さだ、人が一度に10人くらいは歩けそう。
通路の真ん中には細い水路があり、水が流れている。
地下がほんのり明るい原因は鉱石のようで、壁に均等に設置されている。
「蛍石じゃないか、お宝だな」
リヒトが楽しげに言う。どこかで聞いた話だ、そうだ、昨日、ニーナが高く売れると言っていた。
「どちらに行こうか」
オスカー先生が足を止め、灯りを掲げる。
通路は階段を降りた場所の前後に伸びている。王子達がここに来たとして、どちらにいくのが正解なのか。
人の気配はない。
「昨日は、水が流れる方へ歩いて行きました」
「そうか、ではそちらに行ってみよう」
オスカー先生が歩き出す。
「ところで、君は、昨日、どこに行っていたんだ」
振り向かずに僕に問う先生に、僕は無言のままついて行く。言えるわけないでしょ、王族の緊急避難路を見つけてきました、なんて。
「後でゆっくり聞かせてもらうかね」
オスカー先生の低い声が怖い。聞かないでください。
通路は長く続いていた。
突然、キュキュキュっという動物の鳴き声がして、僕は、うわっと声をあげてしまった。
「ネズミだよ、アレク」
ニーナの呆れた声がして、ムッとする。
「ちょっと、びっくりしただけだよっ」
歩みを速めて先生より前に行こうとして、何か固いものを踏んだ。カチャカチャと音がする。
拾い上げると、小さな蝋燭台だった。火の消えた蝋燭は、まだ長く残っている。
「これ、ルノーの部屋にあった蝋燭台だよ」
ニーナが僕の手元を覗き込んで言った。
「じゃ、やっぱりルノー様達はここに来たんだ!」




