68 王宮迷走1
ダンスレッスンの後、「なんでも言うことをきく」と約束した僕に、ニーナが提示したのは「隠し部屋探しに行く」ことだった。
「ニーナ、本気? 王宮は兵隊が見回りしていて、コソコソ動き回ると、斬られちゃうかもよ。……隠し部屋探しは諦めた方がいい」
「わたしは隠し部屋探しがしたいの。わたしは斬られたりしない。アレクのことだって守ってあげる。……なんでも言うことを聞くって、アレク、言ったよね?」
「う……」
「嘘つきは嫌いなんだよね?」
「……わたっかたよ、一緒に行くよ」
僕が肩を落とすと、ニーナは、にっと笑った。
……確かに、なんでも言うことをきくって言った。でもそれは、美味しいスイーツをご馳走するというような可愛らしい用件だろうと考えていたんだけど。
隠し部屋探しかぁ……ふと、冷たく笑うリヒトと、怒ったイネスの顔が頭に浮かぶ。ゾクッと背中が寒くなった。
夕食の後、ルノーの部屋でボードゲームをすることになっていた。
王子達と過ごす時間は、いつも使用人やボディーガードが同行し、僕らの話や行動は常に誰かに見聞きされていた。でも、ボードゲームの間は、ルノーが使用人もボディガードも部屋から追い出した。
僕らだけで話をする初めての機会だ。
「ルノー、さっき図書館で話した、隠し部屋のことだけど、どこか心当たりがあるんだって?」
ボードゲームは、はじめにルノーとニーナが対戦する。二人で駒を並べながら、話しているのが聞こえた。
「ちょっと、まって、ニーナ、王子様達も一緒に行く気?」
「さすがに王宮は広いし、王宮をよく知ってる人が一緒の方が早いじゃない」
「いやいや、もしかしたら危険かもしれないことに、王子様たちは巻き込めないでしょ」
「アレクシス、僕は危険なんか怖くないよ」
「ルノー様、そういう問題じゃなくて…」
「なんの話をしてるんだ、君たちは」
アンリが、紅茶を入れてくれながら、こちらを見る。
そうだ、アンリなら、ルノーを止めてくれるかもしれない。あわよくばニーナも、危ないからやめなさいと諭してくれるかも。
僕が説明しようと口を開く前に、ニーナに先を越された。
「アンリは、この王宮に隠し部屋があるって、知ってるんでしょ?」
「隠し部屋? うーん……部屋かどうかはわからないけれど、入ってはいけませんと言われている場所はいくつかあるね」
「それっ! それよ、さすが、アンリ! 頼りになるわ! どこにあるのか、教えて」
ニーナは、さっとアンリのもとへ走り、嬉しそうにアンリの顔を覗き込んだ。
アンリは、紅茶のポットを持ったまま、ニーナの反応に目を丸くしている。
「ね、お願い、アンリ」
ニーナは可愛らしく上目遣いにアンリを見る。
アンリはしばらく驚いた顔でニーナを見つめていたが、ふっと優しく笑った。
「仕方ないですね」
……やっぱり、アンリも頼りにならなかった。僕はガックリとテーブルに塞ぎ込む。
「兄上は、どこを知ってる? 僕と同じかな」
ルノーが白い紙を持ち出して、図面を書き始める。
アンリとニーナがそれを囲み、もうボードゲームはお開き状態だ。
仕方がないから、僕も話の話に加わる。
ルノーが器用に描いた王宮の図面に、アンリとルノーで話ながら印をつけていく。
二人の話を聞く中で、ニーナが関心をもったのは2カ所だった。
「うーん、そうだね、今日は、こっちに行こう!」
「「「今日?」」」
僕とアンリとルノーの3人の声が揃う。
「ちょっと待って、ニーナ。今日って、もう夜だよ、これから行く気?」
僕が慌てて聞くと、ニーナは、ふふんと笑った。
「そう、今夜行くの。もし見つかっても、王子様達と月を見ながら夜のお散歩ってことで、説明しやすそうでしょ?」
「いいね、そうしよう!」
とルノー。
「夜の散歩はいいですね、行ってみたい」
とアンリ。
「でも、王宮って夜も衛兵が見回りしているんですよね?」
「そうだけど、夜に盗賊が押し入るとか事件が起きるとか聞いたことないから、見回りも、形式だけだと思うよ」
アンリは、まあ大丈夫でしょうという。
僕らは、部屋に帰って、使用人には「疲れているから朝まで部屋には入って来ないで」と伝え、ベットに入ったフリをして、夜中にルノーの部屋の前に集合するということに決めた。
打ち合わせどおり集まった僕らは、4人で静かに、音をたてないよう歩いて行く。
ニーナはドレス姿ではなく、ブルーのパンツ姿で髪は三つ編みにしていた。男の子の格好だけど、それはそれで可愛いと王子達には好評価だった。
途中、見回りの兵隊が歩いているのを遠目に見つけて、それぞれに別れて身を潜める。
月明かりの中、兵隊をやり過ごし、時折、庭に身を潜めたりして、王宮の本館の脇の建物にたどり着いた。
昔、神殿として使われていた建物らしい。
目的地に到着したことで、僕らにはちょっとした高揚感があった。
「すごいですね、誰にも気づかれなかった。」
アンリが嬉しげに声を潜める。
「僕もここに入るのは初めてなんだ。ドキドキするね」
ルノーも興奮気味だ。
「ここからが大事だから。もし誰かに見つかったら、散歩していて道に迷ったことにするから、みんで口裏を合わせなくちゃダメだよ。気を抜かないで!」
ニーナの言葉に二人とも神妙に頷く。
その時だった。
「誰だ、そこにいるのは!」
男性の声がした。見ると、灯りを持った人が一人、通路からこちらを見ている。
暗闇の中だけど、僕らは旧神殿の入り口で4人で立っていたので、遠目に人影が見えたのかもしれない。
「やばい、逃げよう」
ニーナが、僕らを見る。
アンリもルノーも呆然と、灯りを持った人のほうを見て、動く気配がない。
「夜の散歩ってことで素直に謝るほうがいいかも」
と僕は言ってみる。
「そこに誰かいるんだろ?」
灯りを持った人が近づいてくる。




