66 ダンスレッスン
お茶とスイーツを楽しんだ後は、ダンスのレッスンが開かれた。
最終日に、小さな舞踏会を開催する予定があるらしい。
ニーナや僕がダンスができるかどうか心配して、練習する機会をくれた。
リヒトは参加せず、部屋で休憩してくると言って姿を消した。
ニーナは、ダンスの経験はなかった。
でも、ニーナはレッスンを受け、たった1時間でステップを覚えてしまった。
ニーナの身体能力と記憶力はすごい。王子たちも目を見張っていた。
僕はと言えば、それなりの教育は受けているので、踊れないこともない。
社交界行事へはまだ参加したことはないけれど、16歳になったら参加してみてはどうかと父さんには言われていた。
ダンスの先生が、誰かと踊ってみるかとニーナに問うと、ニーナは僕を指名してくれた。
「お嬢さん、僕と踊っていただけますか?」
僕がおどけてニーナに手を差し伸べると、ニーナは、はにかんで「はい」といい、僕の手を握った。
曲が始まり、ステップを踏む。
ニーナは、僕に合わせてくれているのか、足運びがスムーズだった。
息を合わせて踊ることができて、楽しい。
踊りながら、ニーナが僕を見て嬉しそうに微笑むので、僕は、ニーナの大人びた様子にドキドキしてしまった。
「ニーナって、女の子だったんだね」
つい、口にした言葉が失言だったと気づいた瞬間、思い切り足を踏まれた。
「いてっ」
僕は、足を抱える。曲の途中でダンスが途切れてしまった。
「どういう意味、アレク!」
ニーナが、両手を腰にやり、僕を睨んでいる。
「ご、ごめん、いや、あの、女の子らしいニーナもいいなと思って…」
我ながら、全然フォローになってない。
「何、それ。わたしはいつも女の子らしくないと言いたい訳?」
「いや、そういう訳じゃなくて…」
まさか、ニーナを見てドキドキしたなんて言えない。
「もういい、アレクなんて知らない! アンリ、わたしと踊って!」
ニーナはプンプンと怒って、アンリのほうへ行く。
今、ニーナ、今、王子を呼び捨てにしてなかった?
「どうぞ、お姫様」
アンリが、にこやかにニーナをエスコートして踊り出す。
アンリとニーナのペアのダンスは優雅だった。アンリのエスコートが僕よりうまいのだろう。
「素敵だよ、ニーナ」
アンリの言葉に、ニーナの頬が赤くなる。
アンリは、ニーナの腰を自分に引き寄せ、ニーナとより体を近づけてダンスをする。
それでも二人の足はもつれないし、踊りは見ていて綺麗だ。
一曲を踊り終わると、二人で優雅にお辞儀をして、ダンスの先生や演奏者、使用人たちから拍手がわいた。
「アンリありがとう、楽しかった!」
「僕もだよ、ニーナ、もう一曲踊る?」
アンリとニーナが見つめ合っている姿は、僕は、ちょっと面白くない。
自分の失言のせいだから仕方ないけど…
アンリは、もうちょっと、僕のニーナから離れて欲しい。
「待てよ、ニーナ、まだ、僕と踊ってないよ」
ルノーが、ニーナとアンリの前に立つ。
「ルノーも踊れるの?」
ニーナが驚いたようにルノーに言う。…王子に対してなんて、失礼なことを…
「な、君は、いったい僕をなんだと思ってるんだ!」
ルノーが喚く。
「だって、ルノー、小さいじゃない」
「小さいって、年は、君と一緒だし、身長のことなら、もっとこれから伸びるし、ほら、今だって、ニーナよりは大きいよ!」
ルノーは、自分とニーナの身長を手で比べてみている。
「そんなことないよ、わたしのほうが大きい」
ニーナも、負けじと手をかざす。なんとかの背比べって言葉があったような…。
「僕のほうが大きいったら! なんだよ、ニーナなんてまだ子どもで、胸だって、全然ないじゃないか!」
ニーナが、固まる。
ルノーが、はっとして、しまった!という顔をして固まる。
僕は、ルノーの元へ急ぐ。
「なんですってぇ!」
ニーナが振り上げた手を振り下ろすまでには、ニーナとルノーの間に割り込んだ。
ニーナの平手打ちがバシッと僕の腕に直撃する。
「アレク…」ニーナが僕を見て目を丸くする。
「ニーナ! 君は手が早くていけない、王子に手を上げるだなんて、何考えてるんだ!」
僕は、ニーナを睨み付ける。平民が王族を殴ったら、大事件だ。ダンスの先生や演奏者や使用人、多くの人の目がある。
ニーナが泣きそうな顔になった。




