65 フリシア 4
僕は、呆然とリヒトを見送った。
リヒトの美しく優しげな見た目と違う一面を見た。
こ、怖かったぁ…。あの人は普通じゃない。
ニーナがお兄さんたちを怖がる理由がわかった気がする。
あの威圧感。僕なんか一捻りで殺られてしまいそうだ。
ひとまず、本を片付ける。謎が頭を巡る。
フリシアがニーナの母親ならば、18年前に18歳で亡くなったというフリシアの記録と、ニーナの13歳という年齢には、5年間の差がある。この空白の時間は何を意味するのか。
ルナール家は、知っていてニーナを養女にしたのか。
何故、王族であることを、公表しないのか。
何故、リヒトは、ニーナの母親が海で亡くなったと、国王に告げたのか。
リヒトは今後ニーナをどうしようと考えているのか。
もっと情報がほしい。王家と、そしてルナール家の。
「アレクー、どこー?」
ニーナが僕を探す声が聞こえた。僕は声の方へ向かう。
「ニーナ」
「アレク、ここにいたんだ、ね、見てみて、この本! お城の建築のことが書いてあるの! 後でさ、一緒に、お城の隠し部屋を探そうよ!」
ニーナが瞳をキラキラさせている。
「ええっ、また、隠し部屋?」
「うん、そう! ここは王宮だよ! きっとあるよ、隠し部屋は!」
「いやいや、いくらなんても王宮は、勝手にうろうろできないよ。叱られるくらいじゃすまないかも。兵隊も見回りしているし、下手したら、殺されちゃうよ」
「大丈夫だって。夜中に、こっそり、うろうろすれば、バレないって」
「ニーナ…」
僕は肩を落とす。言い出したら聞かないからな…
「隠し部屋が何だって?」
「うわっ」
いつの間にか、ニーナの後ろにリヒトがいた。ニーナが固まる。
「い、いえ、あの、お城なら、構造上、隠し部屋くらい作れるかなぁと建築の話をしていたんです」
僕は、固まったニーナの代わりに言い訳を考える。
しかし、どこまで聞いていた?
「ほお、それで、夜中にうろつくつもりだと?」
全部聞きていたんじゃないか…、どこにいたんだ?
「ニーナ、詳しく話が聞きたいな。おいで」
ニーナの襟首を掴んで連れていこうとする。
「やだやだ、助けてアレク!」
「ち、ちょっと、待ってください」
僕はリヒトのうでにすがると、リヒトは、ニーナの襟首から手を離した。
僕はニーナとリヒトの間に入る。
「二人で冗談を言っていただけです」
リヒトが僕を睨んできたが、僕は睨みかえす。負けるもんか。
「あなたは、子どもの冗談を聞いて叱るんですか」
リヒトの目に怒りが灯ったように見えた。やばい。言葉を間違えたかも。
「ニーナ、どこですかぁ」
アンリ王子の声が聞こえた。救いの声だ。
「はい、ここです!」
ニーナが元気に手を挙げる。王子からは書棚があって見えないけれど、声をたどって来てくれた。
「ああ、こちらでしたから、そろそろ戻って、お茶にしようと思いまして」
「はい、嬉しいです」
「その本は、借りるんですか、ニーナ」
「はい」
にっこり微笑む。
ニーナ、君、絶対に、隠し部屋は探すつもりだね。
ポキポキと指を慣らす音が聞こえ、ふと見ると、冷ややかな目付きでリヒトにがニーナを見ていた。
こ、怖いんですけど…。
ニーナ、僕はこのお兄さん敵に回してまで、隠し部屋探しには行きたくないなぁ。




