62 フリシア 1
「やあ、アレクシス、久しぶり!」
王宮に到着すると、ルノーが元気に迎えてくれた。
「今、兄上がニーナの出迎えに行ってる。エスコート役は、くじで負けたんだ。でも、これから、たくさんイベントを予定しているからな。今までは君だけがニーナと一緒だったけど、僕はこの4日間で、ニーナの中の僕の位置を獲得する! 負けないからな、アレクシス!」
また宣戦布告された。
僕は苦笑いになる。
ルノーはニーナと同じ年齢だし、身長もニーナと変わらない。
可愛いなと、思ってしまう。ルノーには失礼なんだろうな。
「お手柔らかにお願いします」
とだけ、言っておいた。ルノーは鼻息荒く頷く。
しばらく待っていると、ドアが開いて、アンリとニーナが現れた。
お出迎えのため、立ち上がる。
ニーナと目があった。
「アレク!」
ニーナは、僕に駆け寄ってきて、なんと、抱きついてきた。
「会いたかった、アレク!」
「に、ニーナ、だめだよ、こんなところで!」
僕はオタオタしながら、ニーナを受け止める。
ニーナの柔らかな温もりが嬉しい。
ここ数日の喪失感が満たされる。
嬉しそうな顔で見上げられて、嬉しすぎるのだけれど、照れくさい。
「…ニーナ」
低い声がした。
どこかで聞き覚えのある声だ。
ムッとした顔のアンリの後ろに、冷やかな目でぼくを見つめる人物がいた。
リヒトだ。金髪碧眼で、すらっと背が高く、切れ長の目が印象的な美形だ。
今回はお兄さん付きかぁ…。なんか僕、睨まれているし。
ニーナは、リヒトの声を聞くと、慌てて僕から離れて、僕の後ろに隠れた。
「ニーナ、僕もいるんだけど」
憮然とした声で、ルノーが言う。
「まあ、ルノー王子様、お久しぶりです!」
ニーナが、ぱあっと嬉しそうな顔で、ルノーに駆け寄る。
ルノーは、顔を赤めて、嬉しげに
「ああ、久しぶり。相変わらず、可愛いな、君」
と言った。おっと、直球で褒めるとは!
「可愛い?わたしが? ええっ! 嬉しい!」
こちらも真っ直ぐ受け止め喜んでいる。
ニーナは、くるりとターンして僕のところにきた。
「アレク! ルノー様がわたしを可愛いって! アレクもそう思う?」
おっと、これはどう打ち返せば正解だろう?
「相変わらず仲がいいですね、お二人は。」
アンリは困ったように笑いながら言う。
「ようこそ、アレクシス、ニーナ、今日から4日間、王宮での生活を味わっていただきます。僕とルノーでいろいろ計画させていただきました。ニーナ、後でスイーツも用意してありますからね。」
「まあ、アンリ様ありがとうございます!」
ニーナが目を輝かせている。アンリも嬉しげに笑った。
「今回はニーナのお兄様にもきていただいています。どうぞ、リヒト。」
アンリに紹介され、リヒトは、僕たちの前で華麗なお辞儀をした。
「リヒト・ルナールでございます。本日よりしばらく皆様のお供をさせていただきます。どうぞ、お見知りおきを」
相変わらずカッコいい。
ルノーは、少し頬を赤くして、リヒトに挨拶する。
「ルノーです。ニーナとは友達になりました。よろしく、ニーナのお兄様」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ルノー様、どうぞ、リヒトとお呼びください」
リヒトは身をかがめ、ルノーに視線を合わせるようにし、それはそれは美しく微笑んだ。
ルノーの顔の赤さが増す。
「お久しぶりです、リヒトさん」
「アレクシス様、いつも妹がお世話になりありがとうございます。先程は申し訳ありません、礼儀のなっていない妹が突然抱き付いたりして、後で厳しく言っておきますので、ご容赦ください。」
微笑みは美しいのになんだか怖い。
「い、いえ…、叱らないであげてください。」
「いえ、そういうわけにはいきません」
リヒトが、ニーナを見る。
ニーナは後ずさった。
「皆さん、仲良くしてくださいね。では、まず、王宮内をご案内します。」
王宮内を見学する間、ニーナは、僕と腕を組んで歩きたがった。
ルノーがニーナに話しかけようとするし、アンリ王子が案内をしてくれるから、結果4人で並んで歩いていた。
王宮の通路が広くてよかった。
リヒトは一人で遅れてついてくる。
王宮の主要箇所をひととおり案内してもらうだけでも、時間を要した。
図書館があると聞いて、ニーナは目を輝かせて、僕から離れた。
その瞬間、こちらですよと、アンリが、ニーナの手をとり、エスコートしていく。
ルノーがアンリの後を追う。
気づくと僕のとなりにリヒトがいて、ニヤニヤ笑っている。
いい気味だとでも言いたそうだ。
「何ですか?」
僕はムッとするのを隠し、笑顔で話しかける。
「アレクシス様にはずいぶん妹が懐いていますけど、王子様がライバルじゃ今後どうなるかわかりませんね。」
「どういう意味ですか」
「おや、まだ余裕ですか?」
「僕とニーナは、その、…親友ですから」
「親友…?」
リヒトはキョトンとしてから破顔した。
「そうだったんですね、それはいい。妹を頼みますね、親友くん。」
なんと、僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。
なんだこの子ども扱いはと、僕は憮然とする。
それを見て、またリヒトは笑って先を歩いていく。




