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61 空白2


 父さんの部屋を出て、自分の部屋に戻る途中の廊下に、3人の人影を見つけた。

 なんとなく、ヤな予感がして、ゆっくり静かにUターンを試みたが、

「坊っちゃま、お話があります!」

 というイネスの声に捕まった。


「あれ? どうしたの、3人お揃いで、僕に話なんて」

 仕方なく、笑顔を作って、3人に近づく。

「坊っちゃま、明後日から王宮へ泊まりに行かれるそうですね!」

 イネスが僕に詰め寄る。

 ……情報が早いな。僕だって、今、父さんから聞いたばかりなのに……。

「ニーナ様も一緒とか」

 とマリー。

「ルナール家のお噂はご存知ですか?」

 とクロエ。


「……その話、長くなりそう?」

 3人は、僕をじっと見る。なんとなく、話の内容は見当がつくけれど……。

「よかったら、僕の部屋で話そうか?」

 

 3人娘と向かい合ってソファに落ち着き、話の続きを促す。

「坊っちゃま、王宮に4日間もニーナ様と行かれるそうですが……」

 イネスに見据えられている。あーあ。

「坊っちゃま、いいですか、王宮ではくれぐれも危険なことはしないでくださいね。坊っちゃまとニーナ様がお二人で出かけると、必ずと言っていいほど事件に巻き込まれます。花火に行けば火事に巻き込まれ、別荘に行けば盗賊に斬られる。王宮に行ったら、どんなことになるか!」

 やっぱりイネスのお説教が始まってしまった。王宮に行く前から叱られるのは勘弁してほしい。

「事件に巻き込まれるって言っても、偶然そうなっちゃっただけだよ。別に僕も好きで巻き込まれているわけじゃないし」

「当たり前です! 好き好んで事件に首を突っ込んでいくなんてことしたら、ただじゃおきませんからね!」

「まだ何もしてないのにそんなに怒らなくてもいいじゃないか、イネスったら、僕にそんなに怒ってばかりいると、可愛い顔が台無しだよ」

「まあ、なんてことを! 私のことはいいんです! 坊っちゃまは全然危機感がないから、申し上げてるんです!」


「あの、イネス。坊っちゃまへのお説教は、あとでゆっくり二人でしてもらって、先に、ニーナ様のことを私に、話させもらってもいい?」

 マリーがヒートアップしたイネスの話に割り込んできた。助かった……。

「ま、マリー、そうね、ニーナ様のことは心配だもんね」

 イネスが頷き、押し黙った。


「坊っちゃま、ニーナ様が王室の方々に近づきすぎることが、私は心配です。王室には様々なタブーがあります。ニーナ様がそれを守れるかどうか……。ニーナ様はとても自由な方なので、タブーに踏み込んで王室に囚われてしまわないかと、悪い予感しかしません。しかも、王子様方がニーナ様をお妃と狙っているとの噂もあるようで。私はニーナ様が王宮にいくことは反対です」

 マリーはいつもどおり抑揚のない語り口調だけど、強い意思を感じられる。

「僕もニーナが王宮に泊まりたいと言った時は驚いたんだ。どうしてなのかニーナに聞いたけど、理由は教えてもらえなかった。もう、止められないんだよ、マリー。ニーナの意思だし」

「坊っちゃまは、早くニーナ様を当家に連れ戻すべきです。ルナール家はいけません。当家が一番安全です」

「そりゃ僕もそうしたいけど、そんなこと無理だってわかって言ってるよね? それに、ルナール家がいけないって、どういう意味?」


「それは私から話ます」

 クロエが身を乗り出した。

「私の友人のジュールは、坊っちゃまもご存知ですよね。彼はパン職人ですが、時々配達もするそうなんです。実はルナール家が屋敷を構えたあのあたりも彼は配達に行くことがあるようなんですが、ルナール家の周辺で、風態の悪い男数人を見かけたと言ってるんです。しかも何回も。あの屋敷は、もとは子爵様のお屋敷で、あのあたりは治安がいいはずなのに。近隣にお住まいの方々も不安に思っているようなんです。ルナール家は、大富豪とはいえ、王都へは進出したばかり。ルナール家の繁栄を妬んだ誰かがルナール家を狙っていて、よからぬことを考えているのではないかと……。ニーナ様が心配です」

「……それは知らなかったな。ニーナに気をつけるように話してみるよ」

 ニーナが誰かに狙われているってことも考えられるのか。ニーナの魔力に関係してないといいけど。

 僕はため息をついてから、3人の顔をみる。


「で? 君たちが僕のところにきた本当の理由は何?」


「本当の理由って……」

 3人は顔を見合わせる。

「君たちだって、ニーナがいなくなってこの1週間、ずいぶん大人しかったじゃないか。……ニーナがいなくなってできた空白はニーナで埋めるしかない。君たちも王宮に行って、ニーナに会いたいんだろ?」

「坊っちゃま、珍しく冴えてます」

「それ、褒めてないから、マリー」


「そうなんです。ニーナ様が心配なので、一度お会いしてお話ししたいのです」

 クロエが、真剣な顔で言う。

「私は、王宮で、坊っちゃまが何かしでかさないかって方が心配ですが」

 イネスはなんだかまだ怒った顔している。でも、そういう言い方ってないと思うんだよなー。


「わかったよ、父さんに話して、君たちも一緒に行けるようにするよ。僕つきの侍女が必要だし、ニーナをフォローしたいって言えば大丈夫でしょ。王宮は大変なところだって父さんも言ってたから、何かあった時、僕も相談できる人が多い方がいい」

 3人はほっとした表情になった。

「ありがとうございます、坊っちゃま」

「あ、でも、イネス。王宮から帰ってくるまでは、お説教は無しって約束しないと、君は連れて行かない」

 イネスを見据える。

「う……わかりました」

 よしっ、イネスに勝った! 顔がニヤけないように、真面目な顔を作る。

「それと、王宮では、僕に優しくするようにね、イネス!」

「はい」

 よしよし。


「そうと決まったら、早速父さんのところに行ってくる」


 そして、僕は、父さんになんとか話をつけ、王宮には、僕とオスカー先生と、侍女のクロエ、イネス、マリーの5人で乗り込むことになった。






 

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