59 王宮の庭7
ニーナが、後日、王宮に泊まりに来ることになって、王子二人はご機嫌だった。王宮の中を案内するよとか、舞踏会でも開こうかとか言って盛り上がっている。
僕は、ゆっくりスイーツを堪能する。さっきまでは、不甲斐なくも味わう余裕がなかった。
王宮のパティシエが作るスイーツは、どれもとても美味しかった。見た目の煌びやかさよりも、味の方が優っていて、ほっぺたが落ちそうとはこのことだ。
とりわけ僕が気に入ったのは、クラフティ・リムーザンというカスタード生地にサクランボが入った焼き菓子。並んでいるスイーツの中では素朴な見た目のお菓子だけど、トロッと滑らかな食感とサクランボの酸味が程よくて、なんだか懐かしい味がした。今度エミールに作ってもらわないと。
ニーナが希望していたアイスクリームの3段重は、最後に提供され、数種類のフレーバーから選ばせてもらえて、どの味にするかで盛り上がった。
気がつくと、ルノーとニーナが二人して、5段重ねに挑戦していて、僕とアンリとで、お腹を壊すからやめなさいと止めに入った。でも、ルノーもニーナも、僕らの言うことは聞かずに5段重ねに挑戦して、ニーナは途中で挫折し、食べ切ったルノーはニーナから尊敬の眼差しを受けていて、嬉しそうだった。
そして、みんなご機嫌で、次に会えるのを楽しみにしていると挨拶してお開きになった。
「ニーナ、君、なんか企んでるだろ?」
王宮からの帰りの馬車でニーナと二人きりになり、僕は、向かい合った席からニーナを見据える。
王宮では追及できなかったことが、やっと聞ける。
「王宮に数日泊まりたいなんて、君の本心じゃないよね? 王宮は礼儀作法にうるさくて、しきたりを重んじることくらいは、知っているはずだし。 君は、窮屈な生活は苦手だろ?」
殿下へ希望したニーナのご褒美には納得いかなかった。ニーナらしくない気がした。
さあ、きっちり説明してもらおうか。
ニーナは、バツの悪そうな顔で、後ろに下がろうとして、場所の椅子の背もたれの後ろを見て、逃げられないと悟ったように、僕を上目遣いで見る。
「わたし、もうすぐ、ルナールに帰らなきゃいけないから……、アレクと一緒にいられるなら、王宮でもよかった……」
そう言った、ニーナは目が泳いでいた。ニーナは嘘をつくときの特徴だ。言ってくれている言葉は嬉しいけど、そのまま信じることはできない。どこかに嘘が隠れている。
「嘘はダメだよ」
僕は、腕組みをして、怖い顔を作る。
ニーナは、泣きそうな顔をして、下を向いた。
「い、いや、怒っているわけじゃないんだよ、理由を聞きたいだけ。もしかしたら、ルナール家に関係があるのかなと思って……」
ニーナは、喋らない。
「ニーナ?」
ニーナの顔を覗き込む。
「お城だと、アレクが怒ってばかりで、嫌だ」
ニーナは、半ベソだった。
「え、ちょっと、泣かなくてもいいよ、怒ってないって」
「怒ってる!」
「怒ってない、本当だよ」
僕は、慌てて、ニーナの隣に座り、顔を覗き込もうとする。
ニーナは、僕の視線を避けるように首を振る。
それから、膨れつらになり、僕に抱きついてきた。
「ニーナ…」
僕の胸に、顔を埋めているので、ニーナの表情はわからない。
僕は、ため息をついた。
「わかったよ、どうしても言いたくないんだね。もう聞かないよ」
僕は、ニーナの頭に手を置いた。
ニーナは僕にぎゅーっとしがみついたまま、動かない。
「ほんとに君は困ったヤツだな」
ニーナの頭をくしゃくしゃと撫でてから、馬車の外の景色に目をやる。
もう、日が陰り始めていた。
ニーナが、お城での生活が夢だったとか、見えすいた嘘をついたら、本当のこと言うまで許さないつもりだった。
でも、結局、僕はニーナの泣きそうな顔に、負けた。
仕方がない。
ニーナは、「何か企んでいる」のは、否定しなかったから、そうなんだろう。
まあ、なんだろうと、僕はニーナに付き合うし、ニーナのそばにいたい。
ニーナの腕には包帯が巻かれている。今日、アデル王女を救った時の怪我だ。
無理するんだから…、痛かっただろうに。
しばらく窓の外を眺めていると、僕に抱きついたままのニーナから、寝息が聞こえてきた。
僕は起こさないように、そっと、自分の上着を脱いで、ニーナの肩にかける。
無茶ばかりして、走り回って、たくさん食べたのだから、疲れたのだろう。
夕飯はもう食べられないんじゃないってくらい、スイーツを食べていたよね。
僕はニーナの食べっぷりを思い出し、笑いそうになった。
ニーナと過ごす1ヶ月も、あと数日しか残っていない。
もう少ししたら、一緒にいられなくなるんだと思うと、たまらなく切なかった。




