57 王宮の庭5
「兄さんばっかり、ずるい! 僕だって、ニーナのために頑張るよ!」
ルノーが声を上げる。
「ニーナ、君が、次にまた叱られて、おやつ抜きになったら、僕のところにこれば、いつでもおやつ用意するよ!」
「いえ、もう、わたし、叱られるようなことはしませんから!」
ニーナは、慌てて王子の言葉を否定して、僕を見る。
へえー、本当だろうね、ニーナ。
「じゃあさ、ニーナは、アレクシスの家で行儀見習をしているんだろ、それは、ここ王宮でもできるじゃないか、ニーナが王宮に来たらいい!」
ルノーが、名案を思いついたように嬉しげに話す。
「ああ、それはいい考えだ、ルノー。どうです、ニーナ、王宮に来てみませんか? ここで学んで頂けるよう取り計らいますよ。母は、君にとても、感謝していて、何かお礼がしたいと言っているのです。美味しいスイーツも毎日用意します」
ニーナは、驚いた顔で話を聞いていた。
ぼくも驚いている。
なんだか、話が変な方向に進んでいる。ニーナが、王宮に? それは嫌だ。
僕の視線に気づいたのかニーナがこちらを見る。ニーナと目があった。
僕はニーナから、目をそらす。
僕はまだ怒っていた。
もしかしたら今、何かニーナを引き留める言葉を言わないと、ニーナは王宮に行ってしまうかもしれない。
それは嫌なのに、今は、話したくない。僕は黙ってスイーツを食べることにした。
「王子様、わたしのために、色々考えてくださって、ありがとうございます。わたしは今、ロートレック公爵様の家にお世話になっていて、とても、幸せなんです。おじ様はわたしを本当の子どものように大切にしてくれますし、優しい先生や、私をお世話してくれる皆さんがいて、みんな家族みたいで、わたしは、とても大事にされているんです」
「わたしがロートレック家に行ったのは、アレクがいてくれたからなんです。アレクがわたしの話をちゃんと聞いてくれたから。アレクはわたしの親友で、いつも優しいんです。いつもわたしを助けてくれる。」
服の袖が引っ張られたので、思わず袖の方を見ると、ニーナは、まっすぐに僕を見ていた。
「アレク、ごめんね。わたし、アレクを怒らせる気はなかったの。今日は、アレクが、いつもと違って、ちっとも笑ってくれないから、イヤだった。ふざけてケーキを食べたら、いつもみたいに、困ったヤツだなって言って笑ってくれるかと思ったんだけど、……間違っちゃったみたい……。悪いことして叱られるのは我慢するけど、アレクに嫌われるのはイヤだよ」
そうか、僕のせいか。ニーナはいつも通りのニーナだったのに、僕がうるさく言ったからハメを外して、僕を笑わせようとしてたなんて。
「僕は、……君がヤンチャなことするから、ちょっと頭にきただけで、君を嫌いになんてならないよ」
「ほんと?」
「うん。それに、ごめんね、僕が至らないばかりに、君にイヤな思いをさせて」
「ううん、アレクは悪くないよ。わたしがやり方を間違えたの。もう、怒ってない?」
「うん、怒ってない。反省もしてる。ごめん」
「わたし、アレクのそばにいてもいい?」
「当たり前だろ? 僕だって、君と離れたくないよ」
「よかった……」
ニーナがほっとしたように笑った。涙が一筋こぼれて頬を伝う。
僕も思わず微笑んでしまう。
「もう、すぐ泣くんだから、……困ったヤツだな、君は」
ニーナの頬に手をやり、指で涙を拭いてあげる。
「ふられてしまいましたね、我々は」
アンリの声がした。
ハッとして、ニーナの頬から手を離す。
しまった、王子達が見ていることを忘れていた。
……王子達の視線が痛い。
「ニーナ、君を無理にアレクと引き離すことはしませんよ、安心してください。でも、提案があります」
「はい」
「僕を、君の友人として認めてもらえませんか。友人として、今後も君とお話しできる機会をいただけませんか」
「はい、…光栄です」
アンリは、嬉しそうに頷いた。
「僕もいいかな。ニーナ、君の友達になりたい」
「もちろんです、ルノー様」
ニーナの言葉に嬉しそうに頬を染めたルノーは、僕を見る。
「僕も、ニーナの親友の座を目指すからな、アレクシス! いつか、僕がニーナの一番になる!」
……宣戦布告されてしまった。




