55 王宮の庭3
初めに注文したスイーツを食べ終わり、みんなでもう一度スイーツを選ぶことになった時、「きぁあっ」と、悲鳴が聞こえた。
悲鳴は、上の方から。見上げると王宮西棟があり、西棟を囲む木々の隙間、目に映ったものに、自分の目を疑った。
小さな子ども…たぶん1歳くらいの赤ちゃんが、お城の3階と2階の間の配管にぶら下がっていたのだ。
3階から手を伸ばしている女性がいる。
窓から出てしまい、落ちたのだろうか。
「アレク!」
ニーナが西棟に向かい走り出しながら僕を呼んだ。
僕も後にも続く。もちろん、足の速いニーナにはなかなか追いつかないけど。
ニーナは建物の下にたどり着くと、周りを見ていた。
赤ちゃんはぶら下がりながらぼんやりと下を見ている。
泣いて暴れていないのが救いだ。服の背中の部分が配管の突起物に引っ掛かっているようだ。
暴れたら、服が破れて落ちるだろう。受け止められるかどうか。
高さがありすぎて、怪我をしそうだ。
「アレク、わたしが行く! もしもの時は赤ちゃんを受け止めて!」
ニーナは、ヒョイとジャンプして、棟の脇に立つ木の枝に捕まった。そして体を揺らしながら、ヒョイヒョイと木を登って行く。
僕は、いつ赤ちゃんが落ちてきてもいいように、構えて待つ。
アンリとルノーも駆けつけ、使用人も集まってきた。
ニーナが、木の枝から、3階のベランダの柵に飛び付いた。
ベランダの柵によじ登り、赤ちゃんに手を伸ばす。
あと少しで届きそうだが、届かない。
3階からきゃあと悲鳴が上がる。
赤ちゃんが引っ掛かった管が、ギギギと弛みはじめたのだ。
あのままでは、管が外れて落下するかもと思ったとき、ニーナが、赤ちゃんに向かって跳んだ。
その先には捕まるところが無く、着地できそうなベランダも遠い。
僕は息をのむ。
ニーナは、赤ちゃんを抱き抱えると、壁を蹴って、体を翻し、木の枝に向かって片手を手を伸ばす。ざぁっと風が吹く。
ニーナは木の枝に片手で捕まった。木の葉が舞い落ちてくる。
ニーナの掴まった木の枝の下に駆け寄る。ニーナはまだ3階と2階の間の高さににいる。
体が揺れて、留まっている。受け止めるには、まだ、高さがある。
それでも僕は、腕を開いて、ニーナはを受け止められるように準備する。
ニーナと目があった気がした。
ニーナは体を揺らし、次の枝に移った。
「ぐっ」とニーナの苦しそうな声がする。さすがに子どもを抱えて片手では、腕が辛いだろう。
「ニーナ、もう飛び降りろ。ぼくが受け止める。」
僕は叫んだ。どうなるかはわからないけれど、僕の体をクッションにすればいい。
「ニーナ、頑張れ」ルノーの声がした。
「あと少しですニーナ!」アンリも声を上げる。
ニーナは、もう一度体を揺らし、次の枝に跳んだ、もう少しで僕の手が届くところにきた。僕と目が合う。
「アレク、お願い」
ニーナが、赤ちゃんをみて、僕を見る。僕は頷く。
ニーナは、赤ちゃんを僕の方へ差し出した。
僕もニーナへ腕を伸ばす。赤ちゃんがニーナの手から落ちて、僕の伸ばした腕の中に入った。
赤ちゃんは思った以上に重くて、受け止めた衝撃で、僕は尻餅を着いた。
赤ちゃんは、キョトンとしている。
わあっと歓声が上がる。みんなが僕を取り囲み、アンリが赤ちゃんを抱き上げた。
「アデル、無事でよかった!」
どさっと音がした。
ニーナが、落ちたんだと、はっとした。
見ると、ニーナは、膝をついて、うつむいていた。
「ニーナ、大丈夫かっ」
駆け寄って顔を覗き込む。
「うん、平気。」
ニーナは、疲れた顔で、微笑んだ。僕はしゃがんだままニーナを抱き締める。
魔法を使えばもっと楽に助けられただろうに。我慢したんだ。ニーナ、えらい!
「よくやったよ、ニーナ!」
たくさんの足音が迫ってくる音がする。
「ありがとうございました」
赤ちゃんを抱いた女の人が涙声で僕らに頭を下げている。
「ええっ」
僕はニーナを抱き締めたまま、後ずさった。
「こ、皇太子妃殿下…」
「わたくしが目を離したがために、この子の命を失うところでした。ほんとうに、なんとお礼を申し上げてよいか…」
「アレクシス、ニーナ、妹を助けてくれてありがとう! 君たちはまたも私たちを救ってくれた。」
アンリの声に驚く。
そうだったんだ、王女様だったんだ、赤ちゃん。
ニーナ、君って、やっぱりすごい。
「お体は大丈夫でしょうか」
皇太子妃が心配そうに僕らを見るので、僕はニーナを抱き締めたままだと言うことに気がついた。
「あ、はい。ニーナ、立てる?」
頷いたニーナに手を貸す。立ち上がった僕らをみて、皇太子妃が眉を寄せる。
「まあ、大変、お怪我をなさって…」
ニーナを見ると、腕に傷ができて血が出いた。
「に、ニーナ、大丈夫?」
「うん、ちょっと痛い」
ニーナは、情けない顔をした。




