53 王宮の庭1
「ようこそいらっしゃいました。アレクシス、ニーナ」
アンリ王子が気取った礼をした。
金髪碧眼で美しい顔立ちの王子に微笑まれると、僕だってちょっと顔が赤くなりそうになる。
僕らは王宮の西棟、皇太子ご一家のお住まいを訪れていた。
先日、湖で溺れていた王子達を助けたご褒美に、今日は王宮のパティシエが腕を振るスイーツをご馳走してもらうのだ!
「お招きいただき光栄です。」
僕とニーナは、礼儀正しくお辞儀をする。
今日のニーナは、父さんが新調したターコイズブルーのドレスを着て、髪にライトブルーのリボンをつけ、それはそれは可愛いらしく着飾っている。
クロエとマリーが張り切って、朝からニーナを磨きあげていた。みんなから可愛いと褒められ、ニーナもご満悦だった。
エスコート役の僕は、自慢げな気持ちで隣に立つ。
「お久しぶりです。アレクシス、ニーナ」
ルノー王子はニーナを見て、はにかみながら挨拶をする。僕のほうはチラッと見るくらいで、ニーナに夢中の様子だ。ニーナは美少女だから、これだけ磨き上げれば、王子が照れるのもよくわかる。
王子達の案内で進むと、王宮の庭にテーブルと椅子が用意され、テーブルから少し離れた場所の長机には、ガーデンパーティーさながら色とりどりのスイーツと花飾りが並んでいた。スイーツは、とても4人分とは思えない量だ。
「素敵っ」
ニーナが顔を輝かせる。
今にもスイーツをに駆け寄りそうなので、そっと二の腕の後ろを掴んでおく。
アンリはニーナの笑顔に顔を綻ばせ、ニーナに近づいてきて、正面に立つ。
「今日は、お二人のために、王宮のパティシエが腕によりを掛けて、スイーツをご用意しました。お好きなものをお取りいただいて、あちらのテーブルで皆でいただきましょう。」
「あの、王子様、質問をお許しいただけますか」
ニーナは、声を上ずらせながら聞いた。
緊張しているのではなく、スイーツに興奮しているのだろう。
「あなたは、僕の恩人です。今日は、僕達のことは、友人と思ってお話ししてください。」
「はい。あの…何個まで食べていいですか」
「え、えーと?」
「おかわりしてもいいのでしょうか」
上目遣いにアンリを見る。アンリはクスクスと笑う。
「お好きなだけ召し上がってください」
「まあ、ありがとうございます」
口の前に手を持っていき、頬を紅潮させて、ピョンピョンと小さく跳びはねはじめた。
僕は慌ててニーナの脇を小突いて「ニーナ、お行儀!」と、小さな声で注意すると、はっとして姿勢を正す。
「お好きなものを選んでいただければ、使用人に、テーブルへ運ばせます。」
「はいっ」
ニーナは、脇を閉めて拳を握り、力強く頷いた。…ニーナ、それはレディがするポーズじゃない。
「どうぞご覧ください」
と、アンリにスイーツの並ぶテーブルを示されると、スタートを切るようにテーブルへ走っていった。
僕はニーナの腕をつかみ損ねるミスをした。
ニーナは、スピードダッシュした足を止めるため、テーブルの前でざっと音をたてて止まった。
テーブルの台に、ダン!と手をつき、身を乗り出して、スイーツを眺めている。
アンリも使用人も、ポカンとしている。
ルノーは、吹き出した。クスクス笑っている。
僕は恥ずかしくて、早足でニーナに追い付く。
台の上のニーナの手を外させ、ニーナに向かう。
「ニーナ、王宮では走ってはダメだって、クレマンから、あれほど言われただろう! それにテーブルに手をついてお皿を覗き込むなんて、お行儀が悪い。ちゃんとお行儀良くできないんだったら、今すぐ連れて帰るよ!」
小声で叱りつける。なるべく怖い顔を作って言ったせいか、ニーナは目を丸くして、それから泣きそうな表情になった。
「アレクシス、よろしいんですよ、ニーナにはとても喜んでいただいているようで、こちらとしても、準備した甲斐がありました。」
アンリが微笑みながら近づいてきた。
「申し訳ありません。無作法のことは、後でよく言って聞かせますのでお許しください。ニーナに、スイーツを選ばせてあげてもよろしいですか。」
「もちろんです」
アンリが微笑んで、エスコートするようにニーナの手を取る。
「ニーナ、よろしければ、どんなスイーツがあるか僕がご案内しましょうか」
「ありがとうございます」
ニーナは嬉しそうな顔で、スカートをの端をつかみ膝を折った。
申し分なく可愛い仕草だった。アンリの頬が緩んでいる。
「ああ、兄上! 僕がニーナを案内するよ!」
ルノーが、アンリとニーナの間に割り込んで、アンリからニーナの手を奪う。
「ニーナ、こちらへどうぞ」
ニーナの手を引っ張って歩き出す。
「こら、ルノー、そんな振る舞いはレディに失礼だぞ」
「兄上ばかりじゃ、ずるいよ!」
王子達のやりとりを見ながら、僕はそっとため息をつく。
この国ではそれなりに権力を持つ大富豪の令嬢とはいえ、ニーナは平民だ。
王宮で何かやらかしたら、どんなことになるのか…。心配で仕方がない。
ニーナが魔女だとバレたら、全てがおしまいだし……。
後にも先にも王宮に来ることはもう無いのだろうから、なんとか無事に連れて帰りたい。
頼むから大人しくしていてくれよ。 ニーナ。




