51 空飛ぶ馬4
僕は体がふわりと持ち上がるのを感じた。
騎乗したまま、地面から離れていく。
「空を飛ぶって、馬ごと?」
「もちろんだよ、オクタビアンも一緒に飛ぶよ!」
たぶん、風が、僕らを持ち上げている。でも、激しく吹き荒ぶ風に揺らされるのでは無く、ふわりと浮く感じがするだけだ。
僕らは、見る見るうちに森の木々より高い場所にいた。
「すごいね、ニーナ。僕は、空を飛ぶのは、初めてだ」
「そお? 気持ちいいでしょ?」
向かい風はほとんどない。
樹木より高い場所にいるのに、不思議と怖くはなかった。
馬に乗っているせいだろうか。ニーナと一緒だから?
風に包まれているのは安定感がある。
馬のオクタビアンは、空に浮かぶと、地面を蹴らなくなったことに驚いたように、初めは、足をバタバタと動かしていたが、ふわりと浮かんでいるのが気持ち良くなったのか、風に乗る方法を掴んだのか、ゆっくりと足を動かすようになった。空を駆けて行くみたいに。
夕方と夜の間。
逢魔が時。
不思議なことが起きても、きっと、この時間のせいだ。
僕は、地上を見下ろす。
ポツンポツンと明かりが見える。家の灯だろう。
暗闇が森に降りている。
満月が僕らを照らす。僕らは月光に向かって飛んでいる。
不思議な高揚感が、僕を包む。
「空飛ぶ馬に乗ったのって、王国中探しても、僕らだけだろうね」
「はははっ、そうだね、わたしとアレクは、特別だね!」
ニーナは、嬉しそうだ。
空からだと、すぐに別荘が見える場所まできた。
別荘を見て、ふと昨日の父さんの話を思い出す。
もしかしたら父さんは、ニーナが魔女だって知っていたのかもしれない。
そういえば、ニーナが空を飛べることを知っているかように、ニーナの行動には寛大だった。
ちゃんと教えてくれればいいのに。
僕だって、父さんにはニーナの魔法のことは話してやらない。内緒にする約束だしね。
「アレク?」
「ああ、もう、着いちゃったね」
「うん」
「もっと飛んでいたかったね」
「うん」
空を飛ぶのは、気持ちよかった。
ニーナと二人でどこまでも飛んでいけるといいのにと思ってしまった。
でも、僕たちには待っていてくれる人達がいる。
僕らは、別荘の近くで、地面に着地した、
馬屋に行くと、馬番のロイクがぼんやりと立っていた。
僕らが馬で到着すると、ほっとした顔になり、すぐに怖い顔を作った。
「坊っちゃま、ニーナ様! どこに行ってらしたんですかこんな時間まで! 皆さんカンカンに怒ってますよ!」
僕とニーナは、顔を合わせる。
ロイクは僕らが馬から降りるのを手伝い、手早く馬を繋ぐ。
「ほら、行きますよ! まったく、こんなに心配させて! 旦那様に叱っていただきますからね。 あれ? 坊っちゃま、足から血が出ていますよ!」
ロイクが、僕の足に目をやる。
「ごめんなさい、ロイク、心配かけて。実は、帰り道で、盗賊に襲われたんだ」
「と、盗賊!?」
僕らは、盗賊に襲われた経緯をシナリオどおり話した。
ロイクは急いで別荘に報告に行き、それからは大騒ぎになった。
この別荘地の衛兵達が盗賊を捕まえたという連絡は、それほど時間が掛からなかった。
盗賊達はニーナが置いた岩場で、まだ気を失ってたらしい。
服装や人相が僕らの証言と一致していたので、すぐにわかったとのことだ。
盗賊達は、馬泥棒をしようとしたことを素直に白状し、何かに怯えている様子で、保護を求めたらしい。
風がどうしたと、取り乱して意味のわからないことを言っているとも聞いた。
3人とも生きていてよった。
僕らと言えば、盗賊に合うなんて怖い思いをしただろうと、父さんや使用人のみんなから労われ、僕の足の傷は深くなかったけど、みんなからすごく心配された。
夕飯のバーベキューは、遅くなったけれど、別荘の庭で賑やかに開催された。




