45 湖畔にて5
クレマンに案内されて応接室に行くと、10人以上の人がいた。
ソファには、父さんに面して2人が座っていて、他の人たちは立ったままだ。
「二人ともこちらに来なさい」
立ち上がった父さんに呼ばれ、父さんの横に並ぶ。
ソファの2人も立ち上がった。
「こちらが、息子のアレクシスと、ルナール家からお預かりしているニーナです」
「アレクシス・ド・ロートレックです」
「ニーナ・ルナールでございます」
頭を下げてから、相手を見る。
「げっ」
ニーナが、レディらしからぬ声を出した。
そこには、数時間前に溺れていた、アンリ王子とルノー王子がいた。
さっきはずぶ濡れだったが、衣装が改まると別人のよう。
2人とも整った顔立ちをしていて、気品に溢れている。
「アンリです。本日は危ないところを、弟共々助けていただきありがとうございました。先程はお礼も言えず、失礼いたしました。まさか、ロートレック公爵家のご子息と、ルナール家のご令嬢だったとは知らず、また、冷たい湖へ飛び込んで助けていただいたのに、濡れたままお返ししてしまったようで、大変な非礼をしてしまいました。お陰様で、体も無事でしたので、取り急ぎ、お礼に参りました」
「ルノーです。お二人に助けていただかなければ命の危ないところでした。本当に感謝しています」
2人が順に挨拶した。
アンリ王子は、金髪で、僕より背が高い。鼻筋が通っていて切れ長の目。穏やかそうな表情だ。
一方のルノー王子は、やや暗い金髪ダークブロンドで、ニーナとそれほど身長が変わらない、まだ幼い印象を受ける。こちらは目がぱっちりとしていて、負けん気の強そうな顔立ちをしている。
ニーナは令嬢モードの控えめな笑顔で、それぞれが挨拶するたびに軽く膝をおった。
みんなで座って話すことになり、ニーナの笑顔が曇る。
きっとシャルロットとシャーベットが心配なんだろう。
2人は、僕たちに何かお礼がしたいと言い出した。
「あなた方は命の恩人なのです。どんな望みもおっしゃってください。…しかし、ニーナ、先程と違って、大人しい様子ですが、どこかご不調でも?」
「…いえ、…ご心配にはおよびません。」
ニーナが小声で答えると、アンリが不思議そう首をかしげた。
確かに。先程、溺れている二人を助けたニーナと、今の令嬢モードのニーナでは、知らない人から見ると別人だもんな。
ルノーも言う。
「僕は、ニーナに、『王子ならもっとしっかりしろよ』と言ってもらって、意識を改めたいなと思ったんです。そうやって、はっきり言ってもらうことがあまり無いから、驚いたけれど、…本当に反省しているんです。」
父さんが、驚いた表情でニーナを見た。
ニーナが、固まる。その緊張は、僕にも伝染する。
「…王子様、わたくし、そのようなことは申し上げておりませんわ。聞き間違いではございませんか?」
控えめな小さな声で、微笑む。
「いえ、僕も聞きました。」
アンリが声を上げる。
「いえ、聞き間違いです。」
ニーナの口調が強くなる。
「いえ、確かにニーナはおっしゃいました。今こうしてお会いするとこんな華奢でお美しいご令嬢ですが、あのときは、お互い、ずぶ濡れのまま、弟を『この馬鹿、死ぬ気か』」と頭を小突いて叱りつけていただき、勇ましい、そう、戦いの女神の降臨かと思い、見惚れていました。」
「なんのことでしょう?」
ニーナが笑顔を張り付かせる。




