44 湖畔にて4
岸辺は大騒ぎだった。
王子が水に落ちたのは岸からも見えたのだろう、こちらに向かって来ていたボートが何艘のもあった。
王子の無事な姿を見て、泣き出さんばかりの人たちばかりだ。
岸に着くと、たくさんの人に囲まれ、二人の王子は抱えらるようにしれて運ばれていった。
ニーナと僕は、みんなから感謝され、タオルでくるまれ、王子の滞在する別荘に来るように言われた。
ニーナがおやつの時間だからどうしても帰ると言い張ったため、僕らはタオルだけ借りて、びしょ濡れのまま別荘に帰った。
「坊っちゃまは、どうして、ニーナ様が泳ぐのをお止めしなかったんですか!」
と、僕はイネスに叱られた。
「ニーナ様! 服のままで泳ぐなんて! どうしてこう無茶ばかりするんですか!」
と、ニーナはクロエに叱られながらお風呂に連れて行かれた。
…溺れていた人、しかも、王子を、助けてきたとは言い出せない雰囲気だった…。
着替えてから、おやつの時間までは、別荘のテラスで本を読む。
…大人しくしていろと、イネスが睨んでいるからなんだけど…。
でもテラスは、木漏れ日と爽やかな風が心地よい。
ニーナは、鳥の図鑑に夢中だった。
「さっきいた鳥の名前わかった?」
「うん、カワセミみたい。川で魚をとる鳥なんだって。魚をとるところ、見てみたいなぁ。」
「後で、川にも行ってみようか、カワセミが見られるかも知れないよ」
「ほんと? アレク、ありがとう」
おやつの時間に並んだスイーツを、ニーナは幸せそうに見つめた。
この辺りには牧場があり、おいしいクリームが手に入るとのことで、今日のおやつは、生クリームがたっぷりのフランボワーズのシャルロットだ。レモンのシャーベットとフランボワーズのシャーベットも添えてある。
「いただきまーす」
ニーナは、シャルロットを頬張って、蕩けそうに幸せそうな顔をする。
「ほら、ニーナ、口の周りがクリームだらけだよ」
ナプキンで拭き取ってやる。
父さんも、ニーナに目を細目ながら、満足そうに食べている。
「湖のボートはどうだった?」
父さんがニーナに声をかける。
ニーナは、まだ口一杯に頬張っていて、話せないままコクコクと頷く。
そういえば、溺れた王子を助けた話をまだ父さんにしていなかった。
「父さん、実は、さっき…」
「旦那様、大変でございます」
珍しく執事のクレマンが血相変えて部屋へ入ってきた。
「今、王室の方が来られまして、旦那様にお会いしたいと応接室でお待ちです。」
父さんは立ち上がり部屋を出ていく。僕とニーナは顔を見合わせた。
「おじ様、別荘に来てもお仕事なんだね」
ニーナはまた大きな口を開けて、シャルロットを頬張る。
口の端にクリームがついたままで、目をつむり、幸せそうに味わっている。
ほら、また、クリームがついてる、もっと小さく切って食べなさいと、口を拭いてやっていると、クレマンがまた慌てて入ってきた。
「旦那様がお呼びです、坊っちゃま、ニーナ様」
「はい」
僕はすぐに立ち上がり、ニーナを見た。
ニーナは僕の顔を見て、半分残っているシャルロットとまだ手をつけていないシャーベットを見て、もう一度僕の顔を見て、肩を落とした。
「シャルロット」は、洋梨などのムースの周囲をフィンガービスケットで覆ったお菓子。フルーツのシャルロットは、ビスキュイ生地(スポンジ生地)の上にムースをのせ、生クリームと季節のフルーツでデコレーション。冷んやりとして、暑い季節には美味しいスイーツですね。




