41 湖畔にて1
馬車は、湖へ向かう街道をゆったりと進んでいた。
「山が近くなったね」
ニーナは、馬車の窓から見える景色にはしゃいでいた。
「別荘のおやつってどんなかなぁ。ね、アレク、湖って泳いでいいの?」
ずっと喋り続けている。
ときおり、馬車の中なのに立ち上がったり、椅子に膝立ちしようとするから、隣に座る僕に服を引っ張られ、しぶしぶ椅子に座るというのを繰り返していた。
僕らは、ロートレック家が所有する湖畔の別荘に向かっていた。
月に1回程度、父さんの仕事の休みの時、別荘に来るのが恒例だった。
ニーナにとっては、初めての別荘だ。数日前から楽しみにしていた。
「湖は、泳げないよ、深いんだ」
「えーっ」
「でも、ボートには乗れるよ」
「やったね!わたしが漕ぐよ。アレクを乗せてあげる。任せておいて」
湖が見えはじめると、ニーナは立ち上がって窓を覗き込もうとする。
馬車が石に乗り上げガタンと揺れたときにスッ転んで、父さんに受け止められた。
「ニーナ、いい加減にしなさい」
ニーナは、父さんの横に座らされ、立ち上がらないようにと言い渡された。
そして、父さんはチョコレートを出してきて、食べなから大人しくしてるんだよと優しく言う。
ニーナはすぐに笑顔になって、見ていた僕は、なんだか本当の親子みたいだと、笑ってしまった。
別荘に着くと、早速、ニーナとボートに乗りに湖へ向かった。
「素敵なところだね! 街にある木や草花とは種類が違うものがある。あ、あの鳥なんだろう。図鑑を持ってこればよかった…」
「ニーナ、僕とはぐれて帰れなくなるといけないから、走って行っちゃダメだよ。」
「じゃ、アレク、手を繋ごう」
ニーナが僕の手をとり、引っ張っていく。
そんなに急がなくても、時間はたっぷりあるからと、ニーナをなだめ、湖へ向かう。
別荘から数分で湖に着いた。
ニーナはボートを漕ぐのが上手かった。
湖に波はなく、風が心地よい。
水面を進むボートから、湖を囲む山々が美しく見え、気持ちいいねと二人で笑いあっていた。
僕らがゆったりと湖面の風景を楽しんでいると、男の子達の賑やかな声がして、二隻のボートが競走するように進んでくるのが見えた。
前を進むボートに僕と同世代くらいの少年が二人、後ろのボートには、もう少し年上の二人が乗っている。
スピードが出ているためか、僕らのボートからは数メートル離れているが、波がこちらにも寄せる。
元気だなぁ楽しそうだなぁと見ていると、前のボートの少年が一人、立ち上がった。
両手でオールを掲げて、ボートの上でジャンプする。
ボートが揺れる。
その少年は、勝ったぁ!と言ったように聞こえた。
「あ、ダメだ。」
ニーナが呟く。
立ち上がっていた少年が、バランスを崩して、ボートから揺り落とされた。
大きな水音がひびく。悲鳴が上がる。
さらに、ボートは大きく揺れ、座っていたもう一人の金髪の髪の少年も、悲鳴とともに落ちた。
また大きな水音が響く。
水面が大きく揺らされ、僕らの方へも波が押し寄せる。
「大変だ!」
僕は驚き、周りを見る。僕は泳げない。
次の瞬間、ニーナは立ち上がり、しなやかに水に飛び込んだ。




