39 花火6
いつもと違い、迫力満点のニーナに僕はたじろぐ。
馬車の中だと、狭くて逃げ場がない。
「ニーナ、何怒ってるんだよ……いったっ」
ゴツンとゲンコツされた。今まで、一番痛い。
頭を抱える。
「アレク、このバカ! 何考えてるんだ、燃え落ちてくる屋根を、素手で受け止めようなんて、できるわけないだろ!」
「えー! 見てたの、ニーナ…」
「アーレークーシースー」
ニーナが、怖い顔して、僕の両方のほっぺたをひっぱった。しかも、思い切り!
「痛い! ニーナ、痛いって」
僕は悲鳴をげて、やっと離してもらう。泣きそうに痛い。
「どうしてアレクは、何も考えないで危険に突っ込んでいくの! 怖いもの無しも、無鉄砲も、そこまでいくとバカとしか言いようがないよ」
めちゃめちゃ怒られてる。なんでだよ。
「だって、ほっとけないだろ、目の前で火事が起きてて、命の危ない人がいたんだよ」
「だからって、アレクは何も持ってないじゃないか!」
「何も持ってないってなんだよ、ちゃんと、男の子は無事に助けられたよ」
「アーレークーシースー、2回も火の中に飛び込んだっていうの?」
また、ほっぺたを限界まで引っ張られる。
「痛い痛い痛い、ちぎれる! ギブ! ギブ!」
涙が出てきた。
「酷いよ、ニーナ」
「もう! あと少し、風が届くのがもう少し遅かったら、死んでたかもしれないんだよ!」
「風って、あの竜巻のこと?」
「アレクは、燃え落ちる屋根に潰されそうになってたんだよ…」
「そ、そうかもしれないけど、なんか燃えてた屋根は飛んでったんだよ、あの竜巻は凄かった。魔法みたいだった。」
「ほんとに、びっくりしたんだから」
ニーナが下を向いた。ポタポタと水が落ちる。涙?
「アレクのバカ!」
ニーナは泣きながら、僕に抱きついてきた。
ガチャっと馬車のドアが開いて、オスカー先生が入ってきた。
「…何、ニーナを泣かせてるんだ、アレク」
「い、いや…」
ニーナは、僕の胸に顔を押し当てて泣いている。
「それに、なんで君はそんなに焦げているんだ」
腕を組んで、険しい顔で言われると、なんだか説明しにくくなる。
「不発花火が、君が行った方へ落ちたと分かって、ニーナが走って行ってしまったんだ。なかな戻ってこないし、君が心配だったよ」
そうだったんだ、心配してたんだ。
「ごめん、ニーナ、心配かけて」
ニーナの頭を撫でる。
「やっぱり君は、不発弾が破裂したところにいたんだね」
「ま、まあ、そんな感じです…」
先生の言葉に曖昧に返事をする。
「そんな感じとかじゃないでしょ! わざわざ自分で火の中に飛び込んで、人を助けようとして、火事に巻き込まれて死にそうになってたじゃない!」
「に、ニーナ…」
「どういうことだ、アレクシス」
「先生…」
「説明しなさい」
「…はい」
僕は、移動遊園地での回転木馬の火事の一件を説明した。
僕は僕なりに頑張ったはずなのに、説明を聞く先生の顔つきは険しくなる。
なんだか、叱られそうな予感がしているときに、またドアが開いた。
「やあ、大変だったみたいだね、不発花火が落下して破裂して、回転木馬が燃えたそうじゃないか。でも、死者も重傷者も無かったって…」
喋りながら馬車に乗り込んできた父さんが、僕に目を留める。
「アレクは、どうして、そんなに焦げてるんだい?」
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