38 花火5
回転木馬の屋根が燃え盛り崩れて、熱風と、バキバキという不穏な音と共に、僕の方へ落ちてくる。
ヤバイ。
「逃げて!」
僕は、自分が肩を貸していた女性を、屋根から遠のくように突き飛ばした。
そして女性が逃げられるようにと、燃える落ちる屋根を支えるため、手を伸ばした。
刹那
ごおおっと凄まじい風の音がした。
屋根は、僕の方へ燃え落ちては来なかった。
屋根は燃えながら、空中に吹き飛んで行った。
風が渦巻いている。
竜巻だ。
竜巻は、回転木馬の燃ている部分を飲み込み、火を上空へ巻き上げ、川へと投げ落とした。
僕は、手を伸ばしたまま、ぽかんと、それを見ていた。
え・・・・?
周りの火の手は全て消えていた。燃えていた部分は全て竜巻に巻き上げられたらしい。
奇跡だ。
助かったんだ。
ハッとして、女性を見る。
女性もぽかんと、飛んで行った屋根の方向を見ていた。
「大丈夫ですか」
「あ、ありがとうございまいた!」
女性が、泣き出さんばかりに僕にいう。
「エレナ!」
女性に駆け寄ってくる男性が見えた。
「ジュール!」
エレナと呼ばれた女性は、男性を見て手を伸ばす。
「探したよ、無事だったんだね、よかった」
「この方に助けていただいて…」
「ありがとうざいます! なんてお礼をしたらいいか」
「い、いえ…」
奇跡だ。火事が一度に吹き飛ぶような竜巻が起きるなんて。
魔法みたいだ。
「アレクシス様、何をしてらっしゃるんですか」
突然、ニーナの声がしたので、僕はビクッと周りを見た。
レモンイエローのドレスを着たニーナが、いつの間にか僕の隣にいて、にっこりと微笑んでいる。
鎮火したばかりの火事場に、相応しくない笑顔だった。
「あ…えーと、人助け…かな?」
なんとなく、ニーナの笑顔が怖い。
「アレクシス様とおっしゃるんですね、あなたは、私の命の恩人です」
エレナが僕の手をとる。
「あの、苗字もお聞かせください、いづれお礼に参ります」
ジュールが、僕に近づく。
「お二方、ちょっとよろしいでしょうか」
ニーナの凛とした声が響いた。
「あ、はい、お嬢様」
ニーナの服装は、貴族とすぐわかるものだったので、エレナが恐縮する。
「この方のお名前やご身分は、お知りにならない方がよろしくてよ」
「そ、そうなんですか? そんなにご身分の高い方とは…」
二人が僕から離れる。
「ええ、そういうわけで、わたくし、アレクシス様にお話がありますの、失礼してもよろしいかしら」
ニーナは、二人に、にっこりと微笑みかけ、
「さ、アレクシス様、こちらへ」
と僕の腕を掴んで、引っ張る。
「あ、わかったよ、では、どうぞお二人ともお元気で」
僕は、二人に挨拶して、ニーナに引っ張られて歩き出した。
「ニーナ、いつからいたの? さっきの竜巻見た?」
ニーナに話しかける。
ニーナは僕を無視して、ズンズンと進んでいく。
「ちょっと、ニーナ、どうしたの?」
来賓用の入り口で、オスカー先生に会えた。
「どうしたんだ、アレク、その格好…」
先生は僕を見て絶句した。
僕も自分の姿を見下ろして、服のあちこちが焦げていることに気づく。
擦り傷やちょっとした火傷もある。だから体のあちこちが痛かったんだと、今更気づいた。
「オスカー先生、アレクはこの姿では、もう席には戻れません。わたし、アレクを連れて、馬車でお待ちしています。先生は荷物を取ってきてくださいませんか」
ニーナはテキパキと言った。
確かに、こんなに焦げていては、来賓席に行けない。
というか、さっきの不発花火以降、花火は中断しているみたいだ。
先生は、ニーナに「わかった」といい席の方へ戻って行った。
ニーナはまた僕を引っ張って歩き出す。
「ニーナ、なんか怒ってない?」
僕の言葉はまた無視された。ズンズンとニーナは歩いていく。
「ニーナってば、ちょっと、どうしたんだよ…」
馬車に辿り着き、乗り込む。
ドアを閉めた途端、ニーナが、僕をキッと睨んだ。
なんだか、いつものニーナじゃない。迫力がある。
怖いんですけど…
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