36 花火3
花火の中盤が過ぎ、その迫力に見とれていた時だった。
「わっ、お兄ちゃん、ごめん!」
僕が座っている席をの脇を通り過ぎようとした男の子が、僕とぶつかった。
男の子の持っていたアイスクリームが、僕の服に落ちる。
僕のベージュのスーツに、チョコレートのアイスクリームがべっとりとついた。
「まあ、申し訳ありません」
男の子を連れていた母親が、僕の服を見て驚く声を上げる。
「これは、アレクシス様ではございませんか。なんてご無礼を! どうしましょう…」
以前お見かけしたことのある貴婦人だった。
「いえ、大丈夫です。お気になさらず」
僕は立ち上がった。
「水場で洗ってきます。ごめんね、ニーナ。オスカー先生、ニーナをお願いします」
「大丈夫か、一人で?」
「すぐに戻ります」
貴婦人にも、会釈をして、席を外す。
僕は水場を探して、来賓家族用のコーナーを出た。
花火を見にきた一般の人々が川沿いを歩いている。
目の先に移動遊園地があった。
回転木馬を中心として、屋台が立ち並び、ゲームコーナがあり、賑わっている。
ニーナを連れてきたら喜ぶだろうな。と思って、ついフラフラと、見に行ってしまった。
移動遊園地の水場で服を洗ってから、賑わう人を見る。
綿菓子を食べながら歩く人や、ワインを飲んで楽しげな人。ワッフルの屋台もある。
輪投げや的当てゲームも楽しそう。
うん、帰りに先生にお願いして、ニーナを連れてこよう!
そう決意して、移動遊園地を後にしようとした時だった。
どおんという花火の音がした後すぐに、悲鳴が上がった。
人々がわあっと走り出す。
なんだろうと見ると、花火がいつもよりずっと低い輝いていた。
刹那、黒い球がこちらの方向へ落ちてくるのが見えた。
移動遊園地の回転木馬あたりに落ちたと思った瞬間、どおんという音と共に火花が舞った。
不発花火が落ちて、地上で破裂したんだ!
わあっと逃げ惑う人々。
回転木馬に火がついたのが見えた。
大変だ! まだ乗っている人がいるのに!
僕は、回転木馬に向かって走り出した。
慌てて子どもを回転木馬から下ろして逃げていく人、茫然と見ている人。
悲鳴が交差する。
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