35 花火2
「急な話なのだけど、明日の花火大会に、君たちも見に行ってみないか」
父さんの提案に、ニーナは目を輝かせた。
「花火! 素敵! 行きたいです!」
「王宮主催の花火だからね、来賓の家族用の席のチケットを譲ってもらえたんだ。私は来賓の席にいないといけないから、一緒には見れないけれど、ニーナにも王都の花火を見せてあげたいなと思ってね」
「おじ様、ありがとう!」
ニーナが、父さんに抱きついた。
父さんは、ニーナを抱き上げて、膝の上に乗せて、ニーナと向き合う。
「でも、君に一つお願いがある」
「はい」
「うちの中では、君らしくしていて欲しいと言ったけれど、今度の花火大会の会場では、王族や他の貴族が臨席するから、令嬢らしく、大人しくしていて欲しいんだ。できるかな?」
「はい! 令嬢モードのニーナでいきます! お任せください、おじ様」
「そうか、よかった。アレクは、ニーナをエスコートできるかい?」
…エスコート…。
「はい、できます」
顔がにやけないように、引き締めて返事をする。
「君たちにはオスカーに引率してもらう。楽しんでおいで」
「嬉しいねー、アレク、花火だって!」
父さんの部屋から出ると、ニーナはご機嫌で、踊るように歩いていく。
「そうだね、僕も久しぶりだ。大きな花火も上がるんだよ、とっても綺麗なんだ」
「アレクと二人で見られるのも、いいねー」
おっと、可愛いことを言ってくれる。
「花火を見ながら、アイスクリームも食べらるよ。すごく美味しかった覚えがある」
「最高!」
ニーナは両手を上げて、嬉しそうにジャンプした。
***************
花火会場へ着いた頃には薄暗くなっていた。馬車では一緒だった父さんと、来賓用席の入り口で離れる。父さんはなんだか寂しそうだった。花火を見て喜ぶニーナの顔が見たかったに違いない。
来賓の家族用の席はやはり貴族のご家族ばかりで、知った顔が多かった。ここでは挨拶はし合わない申し合わせがあるそうで、皆それぞれの家族と楽しんでいるようだった。
「ニーナ、僕とはぐれないようにね」
ニーナは、頷くと、僕と腕を組んだ。
今日のニーナは、レモンイエローの生地にブルーのレースが付いたドレスで、ストロベリーブロンドの髪にはドレスと同じ色のリボンをつけている。とても可愛らしい。令嬢モードとやらで、控えめな笑顔を作っている。
「アレク、ニーナ、席はあちらだ」
オスカー先生が先導してくれる。オスカー先生は、ダークブルーのスーツで決めている。シルバーブロンドの髪が映えてかっこいい。先生が歩いていくのをうっとりと見ている女性陣がいて、これが大人の色気ってヤツかーと、僕は感心していた。
席に着くと、先生が係員に、僕らのためのアイスクリームを注文してくれた。先生自身もワインを頼んでいる。
「先生は、今日、デートの約束はなかったんですか?」
ニーナが突然言い出して、びっくりする。先生にそんなこと聞いて、失礼じゃないか?
「へえ、ニーナはそんなことを気にするほど大きくなったんだね」
「そういう言い方は、あんまり子供扱いしすぎです、先生」
ニーナはムッとしている。先生は、おかしそうに笑った。
王宮主催の花火は、王宮の庭から打ち上げられる。
王宮の前を流れる川を挟んで、対岸に観客席は設えてあった。
花火が始まると、人々の歓声がわいた。
「綺麗だねー、アイスクリームも最高!」
ニーナの嬉しそうな顔を見て、僕も嬉しくなる。
アイスクリームはラズベリーソースがかかっていて、甘味と酸味のバランスがよく美味しい。
「わたし、花火をこんなに近くで見たことなかった。海から、陸の花火を見たことあったけど、遠かったし、小さくしか見えなかった。音もズレてたし。近くで見る花火って、迫力あって、綺麗だね」
「うん」
「あ、でも、アレクと一緒に見るから、こんなに綺麗だと思えるのかな」
「え?」
ニーナの潤んだ緑の瞳が僕を見つめる。
「やっぱり、親友っていいねー」
ニーナは屈託なく笑った。
「ははは、そうだね…」




