32 行方2
ドアはゆっくりと開き、ストロベリーブロンドの頭髪が見えた。
身を屈めながら、そおーっと、入ってくる白シャツに、ブルーのズボン。
身を屈めたままくるりと向きを変えて、ゆっくりと音をたてないようにドアを閉める。
そのままゆっくり振り向き、ニーナは、
「うわっ」
と、ドアに背中を張り付ける。
ごとんと、ニーナがもつていた紙袋が床に落ちる。
「な、何っ?」
ニーナは、目を丸くする。
玄関ホールにいた大勢がポカンとしてニーナを見る。
お互いに、一瞬、状況を理解できなかった。
「ニーナ!」
僕は、ニーナに駆け寄った。ニーナを抱き締める。
よかった、無事だった、僕のニーナ。
「アレク?」
ニーナは、僕を抱き締め返してくれる。
ニーナの、体温にほっとして、僕は泣きそうになる。
「どこへ行っていたんだ、ニーナ」
父さんの声が低く響いた。普段の温厚な父さんの声とはちがい、ビックリして、ニーナを抱えたまま振り向く。
父さんのコツコツと地面を蹴る靴の音が、近づいてきた。
父さんは僕たちの前に立ち止まり、険しい顔をして、ニーナを見た。
「街へ、行っていました、あの、本屋へ」
ニーナは、父さんを見たまま、泣きそうな顔をした。
「一人で行ったのか?」
こくりとニーナは頷く。
「誰にも言わずに?」
もう一度頷く。
「どうして誰にも言わずに行った?」
「…すぐに帰ってくるつもりだったから、そしたら、その、み、道に迷ってしまって…」
ニーナの声が小さくなる。
「こんな遅い時間まで帰らずにいて、皆が、どれほど心配したと思っているんだっ」
父さんが大きな声を出して叱るのは、はじめて見た。
ぼくもこんなに叱られたことはない。
ニーナの瞳からみるみる涙が溢れ出した。
見守る使用人たちに、ざわめきが走る。
「父さん…」
僕はニーナが心配になって、ニーナと父さんの間に入ろうとした。
「ニーナ、わたしの部屋に来なさい。」
父さんがニーナの腕を掴み、歩き出した。
「ごめんなさい、おじ様。」
ニーナは、泣きながら連れられて行く。
みんな心配そうな顔で、黙って見送っていた。
執事のクレマンと目が合い、二人で、父さんの後を追いかける。
なにもそんなに叱らなくもいいじゃないか。
父さんは部屋に入ると、ニーナの手を離し、ニーナを振り向いた。
ニーナは、涙を拭いながら、父さんを見上げる。
「ニーナ…」
父さんが、ニーナを抱き締めた。
「ほんとに、心配ていたんだ…。もう、一人で勝手に出掛けてはダメだよ」
ニーナは、父さんの胸に顔を埋める。
「おじ様…」
父さんは、優しくニーナの頭を撫でて、そのままニーナが泣き止むまで待っていた。
「もう、夕食の時間は過ぎているよ。お腹すいただろ、着替えてから、、ダイニングにおいで。アレク、ニーナを部屋に送っておやり」
僕はニーナと手を繋ぎ、部屋へ向かう。
「大丈夫?」
「うん、ごめんね、アレク。心配掛けて。」
「うん。ほんとに、死ぬほど心配したよ。ニーナを失ってしまんじゃないかと、怖かった。」
ニーナの目が泣き腫れている。可哀想に。
「わたしも、こんなことになるとは思ってなかった。」
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