03 兄妹
「先生、先ほどの荷物が…、おっと…、お客様でしたか…」
二人は僕に気づき、歩みを止めた。
「ああ、マルクス、リヒト、今朝話していた、ロートレック公爵家のアレクが来てくれたんだ。紹介するよ」
先生が立ち上がり、二人を僕の近くに連れてくる。
僕は立ち上がる。
「アレク、こちらは、ニーナの兄達で、同じくルナール家のご子息だ」
「マルクス・ルナールです。お初にお目にかかります」
見上げるほどの長身で、がっしりと引き締まった体格、黒髪に端正な顔立ち。
笑顔に惹きつけられつつも、威厳ある風格に近寄りがたい雰囲気がある。
一言でいうとワイルドでカッコいい! 身近な貴族にはいないタイプだ。
「リヒト・ルナールです。お会いできて光栄です」
金髪碧眼で、すらっと背が高い。
切れ長の目、彫りの深い顔立ち、艶やかな唇、顔貌どれをとっても申し分なく整っていて、男の僕でも見とれてしまいそうな美形だ。
王立劇場で観劇したどの「王子様」役よりも美しい。
リヒトは、マルクスの目の高さまでの伸長だが、マルクスが長身なのだ。
ちなみに僕の身長はリヒトの肩の高さしかない。
二人とも20代だろう。ニーナとは年が離れていそうだ。
かっこよすぎる二人に、見下ろされながらも、僕も頑張って笑みを浮かべ、二人を見上げて挨拶する。
「アレクシス・ド・ロートレックと申します。どうぞよろしくお願いします」
先生は、マルクスとリヒトにも一緒にお茶を飲んでいくように促した。
リヒトが、ニーナの横に座り、嬉しそうにニーナ顔を覗き込む。
「やぁ、愛しの妹ぎみ、今日は大人しく勉強していたかい?」
ニーナは、「はい」と照れ臭そうに微笑んだ。
「それは良かった。後でお土産をあげるよ、街でニーナが好きそうなものを見つけた」
「まぁ、楽しみ!」
美形の兄妹だ、話しているだけで様になる。
「ほんとに君たち兄妹は、仲がいいなぁ」
先生は目を細めた。
「ああ、街といえば、そうだ、今、アレクから面白い話を聞いていたところでね…」
先生はいたずらっ子のような顔で僕を見る。
「なんでも、今日ここに来る前に、アレクが街で暴漢に絡まれて、危ないところを、ニーナに似た子どもに助けてもらったそうなんだ」
話を振られ、僕は戸惑った。
「いえ、先生、その話はもういいです…」
この美形のお兄さんたちに、僕の無様な話はしたくない。ニーナだって、似ているだけかもしれない。…ありえない気がするけど、そうしておきたい。
「どういうことですか? もう少し詳しく聞きたいのですが。」
なぜかリヒトが、話に食いついてきた。
僕は渋々、先ほど先生にした話を、もう少し順序だてて細かく話した。
二人は興味深げに聞いてくれた。
「なるほど、王都といえ、物騒なことがあるんだな」
穏やかに話を聞いていたマルクスが、眉を寄せた。
「ま、なんにせよ、アレクシス様が無事で良かった。うちのニーナに似た子に助けられたなんて、縁があるじゃないか、なぁ、ニーナ?」
ニーナに目をやり、微笑む。優しげな声で、男の僕でも惚れ惚れと見とれてしまいそうな笑顔だ。
対するニーナは、一瞬息を飲んだように見えたが、慎ましやかな笑顔で目を伏せた。
「ええ、わたくしもお話を聞いて驚きました。でも、その方と似ているとアレクシス様は、おっしゃったけれど、わたくし、残念ながらそういう方に心当たりはありませんの…。今日もこちらのお屋敷におりましたし…。ねえ、先生?」
と先生を見上げる。
「そうじゃな、ニーナはうちにおったよ。ワシもちょっと急ぎの仕事があったから勉強は見てやれなんだが、庭の手入れをしてくれておった。ニーナはいい子じゃ」
「そうですか、では後で、ニーナがお世話した庭を見せてもらうかな」
リヒトは和かにニーナを見る。ニーナは、目を伏せて微笑んでいる。
みんな笑顔だが、なんだか不穏な空気が流れている気がする。
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