29 隠し部屋1
「アレク、この屋敷の隠し部屋に行きたい」
「…何だって?」
「今日の礼儀作法の授業で、先生が言ってた。貴族の屋敷には隠し部屋があって、そこには、お宝があったり、ティーサロンがあったりするんだって!」
…先生、何てことをニーナに吹き込むんだ。
先生は冗談とか、お伽噺を語ったつもりでも、本気にする奴もいるかも知れないのに。
今、僕の目の前で目を輝かせている誰かさんみたいに。
「ニーナ、残念だけど、うちには隠し部屋はないよ」
「アレク、場所を知らないの?」
ニーナは、きょとんとした。
「うん、うちのお屋敷も結構古いけど、隠し部屋なんて聞いたことないし。たぶん、そういうのは空想の物語のなかだけのお話だよ。先生も物語の一つを紹介したんじゃないかな」
ニーナは、考える顔をして僕の目を見ている。
「そっかぁ…」
残念そうに肩を落とす。
「きっと、アレクは子どもだから、教えてもらってないんだよね…。わかった、わたしが探してあげるよ」
「は?」
「じゃ、行こ」
「ちょ、ちょっと待って! 何でそうなるっ?」
僕の腕を引っ張って歩き出そうとするニーナに抵抗を試みる。
「アレクだって、知りたいでしょ、だって、隠し部屋にティーサロンがあるかも知れないんだよ。すっごい美味しいお菓子が出るかも知れないじゃん! 大人だけずるいって思うだろ?」
「いやいや、ティーサロンなんて無いから、隠し部屋も無いし。探したって見つからないよ」
「探してみなきゃわからないよ! それとも、アレクは探しに行きたくないの?」
「う…」
「じゃ、わたしが一人で探す」
「…一緒に、行くよ」
ニーナは、にっと笑った。
ったく、言い出したら聞かないんだから。
「でも、ニーナ、どこを探すのさ、うちは広いけど、さすがに僕もここに15年住んでるし、大抵の場所は知ってる。隠し部屋って、どんなところにあるか検討はついているの?」
「開かずの扉とかないの?」
「物語のお話だよね」
「大鏡の後ろとか、肖像画の後ろとか」
「なるほど、そんな感じなんだね」
「…いま、バカにしただろ、アレク」
「い、いや…」
「じゃ、とりあえず図書室に行く」
「うん?」
「建築の本で調べてみる!」
「いいね」
ニーナの頭をくしゃくしゃと撫でる。ニーナは、はにかんで嬉しそうな顔をした。
図書室で本を読んで、空想の扉を広げて…と、思っていたのだが、開いたのは、隠し部屋への扉だった。
しかも、僕が開けてしまった。
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