28 昇格2
しばらく沈黙があって、父さんがふっと笑った。
「わかったから、頭を上げなさい。」
父さんは怒った顔はしてなかった。
隣にいるクレマンは、それはそれは怖い顔をしていたけれど。
「ニーナ」
「はい」
「怪我はなかったかい?」
ニーナは、頷く。
「なら、よかった。」
父さんはしゃがんで、壺の欠片を拾う。
「この壺が、倒れてこの台の高さから落ちると、もっと粉々に砕けてもいいのだけれど、破損部分が少ない。…落ち方が上手かったんだね。修復できると思うよ。クレマン、手配してくれるかな?」
「かしこまりました。」
クレマンは、ニーナを睨み付けながら出ていった。ニーナは、首をすくめて、見送る。
「ニーナ」
父さんは、しゃがんだままニーナを見た。
立っているニーナを見上げる格好で、ニーナと目を合わせる。
「君が元気がいいのはいいことだと思うけど、私はね、今日は、壺が、君の代わりに怪我をしたと考えている。もしかしたら、君にとって壁に登るくらいは平気だと思ったかもしれないけれど、自分の力を過信したり、はめをはずしたりすると、怪我をするんだよ。私はそれが心配だ。」
ニーナは、神妙に頷く。
「今回は、困ったとき、ちゃんとアレクに相談して、偉かったね。今後は、何でも一人でやろうとせず、事前にアレクや私に相談してほしい。」
「はい」
父さんは立ち上がって、ニーナの頭を撫でた。
「君を信じてるよ」
それから、僕の肩に手をおいて、僕に笑いかけて部屋を出ていってしまった。
「…これは、…許してもらえたってことかな?」
父さんを見送っていたニーナが、心配そうに僕を見る。
「たぶんね」
僕は、肩をすくめる。
「信じられない、うちなら、今頃わたし、マルクスにボコボコにされている…」
「…そんなに乱暴なの、君のお兄さん…」
ニーナは、なにかを思い出したように顔をしかめて頷く。
そうなんだ、大変だったんだね、ニーナ。
「アレク、本当にありがとう。一緒に謝ってくれて、わたし、アレクを一回しか助けてないのに、アレクには、何回も助けてもらった、だから…、わたし、もう、アレクの親分を辞める。」
「え?」
「もう、アレクを子分だなんて呼べないよ。」
それは良かった。僕は、昇格したらしい。
「だから、これからは、その…」
ニーナは、顔を赤くしながら、僕を見上げる。
「わたしの親友になってくれないかな?」
赤い顔で、しかも真剣な目で言われてしまった。
「えーと、『お兄さん』とかでなくて、『親友』?」
「お兄さんって、マルクスやリヒトは、ろくなやつじゃないから、アレクは、お兄さんじゃない。あいつらに比べれば、アレクの方が数千倍マシだ。」
誉められてるんだよね?
というか、あんなに格好いいお兄さんたちなのに、何言ってんだニーナ。
「わたしの親友は、嫌かな?」
いつも自信満々のニーナにしては、不安げな表情で見上げてくるのが面白くて、僕は、ぽんとニーナの頭に手を置いた。
「とんでもない、喜んで親友になるよ」
ニーナの顔が、ぱあっと明るくなる。
「ありがとう、アレク!」
どうやら僕は、ニーナの中で、「子分」から「親友」へ、レベルアップしたらしい。
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