26 翼6
「ありがとう、マリー、ニーナのために…。この埋め合わせは、また、させてもらうよ」
僕は心を込めて、マリーにお礼を言う。
「坊っちゃまは、私のニーナ様を、ちゃんと褒めてあげてください。」
マリーにしては珍しく、少し声に感情がこもっていた。
マリーは感情の起伏をあまり見せないけれど、幼い頃から一緒にいる僕にはわかる。マリーはなんだか怒っている。
マリーは7歳でこの屋敷にきた。僕は6歳だった。
だからマリーは時々、僕を弟のように扱う。
「まったく、坊っちゃまは頼りない。ニーナ様が叱られていても助けて差し上げなかったでしょう。ニーナ様は、当家の争いの火種を消してくれたんですよ」
どうやら、僕に小言をいうために、ゲームに参加したらしい。
しかし「私のニーナ様」とは…。
「わかったよ、マリー」僕は、肩をすくめる。
「ニーナ、今日はありがとう。君がいなかったら、イネスは疑われたままだったかもしれないし、屋敷の中に誰か泥棒がいるんじゃなかと、トラブルになるところだった。君のお陰で助かったよ。」
「うん、わたし、頑張ったんだよ、アレクのために」
にこーと笑った。そして、さっと、ソファから立ち上がり、僕に抱きついてきた。
僕は座っていたから、首に体当たりされ、グッと締められる感じになった。苦しい。けれど、
「よかったぁ、アレクが怒ってなくて!」
ぎゅうっとひっついてから、僕の顔を見て、嬉しそうな顔をするから、可愛いな、と思ってしまう。
「坊っちゃまは、ニーナ様の凄さを知っていて、うちにお招きしたんですよね?」
マリーが、低い声で言う。まだ怒ってる?
「凄さって、何?」
「坊っちゃまのお祖父様は、国王様の弟君です。坊っちゃまだって、魔力があってもおかしくないんですよね?」
は?
「いや、お祖父様から、魔力のことなんて聞いたことないよ」
お祖父様は、今は、田舎の城で悠々自適に暮らしている。
魔力のことなんて話したことなかった。
マリーと話しながら、僕は、僕にひっついたままのニーナが暑苦しくなって、肩を掴んで引き離す。
まったく子犬みたいなやつだ。
ニーナは不服そうな顔をした。
「そうですね、坊っちゃまは魔力をお持ちではありませんものね」
「そりゃそうだよ! みんな魔力なんてないよ!」
マリーは、ふうっとため息をついた。
なんか釈然としない。何が不満なんだ、マリー!
「さあ、そろそろベットに入る時間ですよ、ニーナ様」
マリーに促され、ニーナが部屋を出ていく。
僕は、ドアまでニーナとマリーを送り、マリーの耳元で囁いた。
「マリー、僕のニーナのために、遅くまで付き合わせて悪かったね」
振り向いたマリーは、僕を、デコピンした。
「いてっ」
不意打ちに、額を押さえる。
「残念ながら、坊っちゃまでは、まだまだです。私のニーナ様を、お任せできません」
冷たい目をしたマリーに囁き返された。
マリーは、ふんと鼻息荒く、ニーナを連れて行ってしまった。
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