24 翼4
「じゃ、そういうことで!」と、手を振って逃げていこうとするニーナの、肩に手を回す。
「ちょっと待って、ニーナ」
ニーナの顔を覗き込む。
「君、嘘ついたよね、クロエに。僕のことで。僕は嘘つきが嫌いだよ。勝手に話を終わらせてもらうのは、困るんだけど」
クレマンが、僕の隣に来て、ニーナを見下ろす。
「ニーナ様、今のお話ですが、ベランダから跳び降りたって、どういう意味でしょうか」
ニーナが、ハッとした顔で、クレマンを見上げた。
あーあ、ニーナ。自分で、自分の悪事をバラしたよね、クレマンの前で。
ニーナは悲壮な顔で、クレマンを見つめ、黙っている。
「説明しなさい、クロエ」
クロエは、クレマンに命令されて、同情するようにニーナを見つめた後、ニーナの日頃の行動を全て、クレマンに話した。
「ニーナ様、あなたはお転婆が過ぎます! 一体、どこの令嬢が、お屋敷の2階から跳び降りて散歩に行くのですか。ベランダは出入口ではありません。もしもお怪我でもなされたらどうするんですか!」
「大丈夫だよ、クレマン、わたしは2階から跳び降りるくらいでは、怪我したりしないから」
ニーナは必死に言い繕う。
「大丈夫ではありません! クロエやマリーの言う事も聞かずに、二人に心配をかけて。旦那様が知ったら、さぞお怒りになるでしょう。大体、その格好はなんです、使用人のような、男の子のような格好でフラフラされて。全くあなたと言う方は!」
それからニーナは、みんなの前で、クレマンに、さんざんお説教されていた。そのうえ、仕事から帰ってきた父さんの前に突き出されたので、さすがに可哀想になった。
話を聞いた父さんは、
「カラスか…、それは、なかなか気がつかないね」
と笑った。
「旦那様は、ニーナ様に甘過ぎます。旦那様からもしっかりとニーナ様にお話ししていただかないといけません。ニーナ様は行儀見習いのために当家でお預かりしているのに、ニーナ様のなさることと言ったら、全く度が過ぎます! 今日は、カラスの巣から小物を取り返すためとはいえ、お屋敷の屋根と変わらない高さの木に登っていたのですよ! 普段はベランダから飛び降りて散歩に行くと言うし、とてもご令嬢のなさることとは思えません!」
「まあまあ、クレマン。今日のニーナは、なんだか元気がないじゃないか。この様子じゃあ、相当、お前に叱られたんだろう? それで、許してあげようじゃないか。ニーナのお陰で、イネスの疑いも晴れて、犯人もカラスとわかって、失くなったものも返ってきたんだ。 今回のことは、もう終わりにしよう」
クレマンは、不満そうだったが、ふうとため息をつくと、「わかりました」と納得したようだった。
「アレクもそれでいいね?」
僕は頷く。クレマンに叱られているのを見ているのは可哀想だった。
「ニーナ。私も、君は、2階から跳び下りるくらいなら怪我はしないだろうとは思っているけど、クロエやマリーが君のことを心配するようなら、君にも配慮が必要だと思うよ。今後、ベランダから出入りしてはいけないからね」
父さんはなぜだかニーナの行動に寛大だ。
ニーナの身体能力を高く評価しているのだろうか。
屋根に登った時もそうだったけど、怪我をしないと言い切れるのが、不思議だ。
「でもっ、おじ様、ベランダから外に行くのが一番早いんです」
ニーナは慌てて父さんに訴えている。クレマンのお説教に全然懲りていない…。
父さんは、眉を上げた。
「君は、君を大切に思って心配してくれる人の気持ちより、自分の都合を優先するのかい?」
うっと、ニーナは言葉に詰まり、肩を落とした。
「わかりました、おじ様。以後気をつけます」
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