22 翼2
廊下には、執事のクレマンと、侍女頭のソフィアと、クロエの妹で侍女のイネスがいた。
イネスは僕の姿を見つけて、ツカツカとやってきた。
「坊っちゃま! 私は、今日でお暇いただきます!」
「落ち着きなさい、イネス」とソフィア。
「そうだぞ、イネス、お前は何も悪くないんだろ?」
とクレマン。二人とも困った顔をしている。
侍女頭のソフィアは、肝っ玉母さん風で、みんなから慕われている。優しく穏やかな人だ。
クレマンは、我が家の全てを取り仕切っているといっていい存在で、普段は優しいけれど、怒ると父さんより怖い。
「どうしたの、3人で僕のところに来るなんて、珍しい。とにかく、部屋で話をきくよ」
部屋に入ると、イネスは、クロエに気づき、涙を浮かべて駆け寄った。
「お姉ちゃん、私…」
「どうしたの、イネス」
イネスが、クロエにすがり泣き出す。
「と、とにかく、座って」
部屋のソファは、6人掛けのため、僕以外の全員に座ってもらい、僕は、テーブルから椅子を運んできた。
イネスはクロエの妹で、16歳。クロエに似てしっかり者で、クロエよりも気が強い。
僕なんか、たまにぼんやりしていると、イネスに叱られる。
そんなイネスが泣いているのが、驚きだった。
クレマンの話によると、どうやら、最近、「小さなもの」がなくなる事件が、この屋敷で起こっていたらしい。
銀のスプーンとか、金メッキのカフスボタンとか、ブローチとか、銀の指ぬきとか。
でも、誰かが盗ったのか、どこかに紛れ込んだのかわからないようなものばかりだったため、犯人探しはしていなかった。
ところが今日、イネスが、庭でブローチを見ていた。
それは、ソフィアが失くしたブローチで、ソフィアにとっては大事なものだった。
イネスがブローチを持っているのを見咎めた使用人がいた。
お前が盗んだのかと、イネスに言ったそうだ。
イネスは、たまたま庭で拾っただけだったという。
しかし、盗んだと言われ腹をたてたイネスは、仕事をやめると侍女頭のソフィアに訴えた。
執事のクレマンも一緒に宥めたが収まらず、僕のところへ直接話に来たところだった。
「イネス、君を誰も疑っていないよ、君に酷い事を言った人も、イネスがブローチを持っていたから、ちょっとびっくりしただけじゃないかな」
「ちょっとびっくりしたからって、人を盗人扱いしてもいいんですか、坊っちゃまっ」
「い、いや、よくないよね…」
やっぱりイネスに叱られた。
「ソフィア、そのブローチ、見せて」
ニーナが口を挟んだ。
ソフィアからブローチを受け取ると、指で大きさを測り、窓にむけてかざす。
キラキラと赤いルビーは綺麗だ。ニーナは、すぐに、ブローチをソフィアに返した。
「ソフィア、それが無くなったのは、いつ、どこで?」
「一昨日です、ニーナ様、部屋の窓際の、テープルの上に置いてありました」
「部屋の窓は開いていた?」
「ええ、季節がいいですから、部屋に風を入れていました」
ニーナは、そっかと言って考えて、イネスを見た。
「わたし、犯人に心当たりがある。犯人は、イネスじゃない、みんな、行こう!」
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