20 剣術2
オスカー先生は微笑んでいる。息も切れていない。
ニーナは、先生を向いて構えながら、じりじりと後ろに下がる。
と、風が強くなった。
さっきまで静かだったのに。
ニーナの後方からざあっと音をたてて風が過ぎた。
ニーナは突然走り出した。先生の数歩前で跳躍する。
先生の背丈ほど跳んで、先生の頭上から、打ち込んだ。
先生は、また、一歩も引かず、木刀で受け止め、そして、木刀を振った。
ニーナの木刀が中に舞う。
ニーナも後ろに跳ばされる。
「ニーナ!」
ニーナが背中から地面に叩き付けられるかと思って叫んでしまった。
ニーナは、身を翻し、ずざっと音をたてながら、膝と手を着いて着地した。
さっと先生が走り、着地したニーナの顔の前に木刀の先を突きつける。
顔を上げたニーナは、木刀の先を見て泣きそう表情になり、ゆっくりと頭を下げた。
「参りました」
先生は微笑み、木刀を下げてニーナに背を向けた。
ニーナは尻餅をつき、地面に拳を打ち付けた。
「あー、もう、悔しいぃ、なにやってんだよ、わたし! ぜんぜんダメじゃん、ぜんぜん歯が立たない、もうやだぁ」
ニーナは、膝を抱えて泣き出した。
僕はニーナに駆け寄った。
顔を覗き込むと、ニーナは、僕に抱きついて、悔しいよぉと泣いた。
僕は、ニーナが泣いたことに驚いて、どうしていいか、分からない。
ニーナは、本気で、先生に勝つつもりで、向かっていたのだろうか。
こんなに小さいのに、この国有数の剣士である先生に勝とうなんて…。
僕はかける言葉が見つからなくて、ただ、ニーナが落ち着くまで、じっとニーナを受け止めていた。
頭を、よしよしと撫でてあげるくらいしかできなかった。
ニーナは次第に落ち着いた。
そして、涙を拭って立ち上がると、僕と手を繋いで先生の前に歩いて行った。
「参りました、先生の勝ちです。何でも言うことを聞きます」
ニーナが頭を下げる。
先生は、目を細めた。
「ニーナの望みはなんだったんだい?」
ニーナは、先生を睨んで、黙り込む。
「おやおや、そんな顔しなくても」
「わたしは負けたから言いません。絶対に言わない」
先生が口の端をあげる。
「面白いお嬢さんだね君は。それじぁ、どんな痛い目にあって貰おうか」
先生が、不穏に低い声でいい、ニーナの目を覗き込む。
僕は、先生に負けない怖い顔を作ってニーナと先生の間に入る。
先生が、ぼくを見下ろした。
「あれ? アレクが私に勝てるのかい?」
「わからないけど、ニーナに手出しはさせない」
僕が先生を引き留めて、ニーナを逃がす。手荒なことなんてさせない。なんとしてでも!
先生が突然、声をあげて笑いだした。愉快そうに。
僕はポカンと先生を見た。
先生がこんな風に笑うところは見たことがない。
「すまない、いいものを見せてもらった。ニーナ、この掛けは、君の勝ちでいいね?」
ニーナを見ると、ニーナもポカンとしている。
「…私の読み違いかな?」
先生はふっと笑って、僕の顔を覗き込んだ。
「アレク、君、強くなりたいか?」
僕が? 強くなりたい?
僕は、今まで、自分が強くなれるなんて、思ったことがなかった。
僕なんて、弱いに決まっていたから。
でも、もしも、ぼくが強くなれれば、ニーナを守ることができる。
窮地のとき、少し時間が稼げるほどになら、僕にもなれるかもしれない。
僕は、チラッと後ろにいるニーナを見る。ニーナと目があった。
僕を真っ直ぐ見つめている緑の瞳。
僕は、先生の目を見る。
「先生。僕は、強くなりたい。」
先生が目を細める。
「よし、私が導いてやろう」
先生は、ぼくの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ニーナ、私の望みを伝えよう」
ニーナは、僕の隣に歩み出る。
先生は屈んでニーナの目を見て言った。
「また、私と手合わせをしてもらえないか」
「はいっ」ニーナが、嬉しそうに目を耀かす。
先生はニーナの頭もくしゃくしゃと撫でた。
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