18 弁明
でも、まあ、考えてみれば、屋根にいたのが僕らだって、バレないはずがない。
遠目でも服の色で分かるよな、ニーナの髪の色も。
夕食後、今日も、父さんの部屋に呼ばれた。
父さんに無言で見つめられて、なんとなく俯きながら、変装して登ればよかったと、反省する。
しかし、無言で見つめられると、居たたまれない。ニーナも、俯いている。
父さんが大きく息をついた。
「屋根に登っていたんだって?」
声が怒っていないので、思わず顔をあげる。
眉を上げた父さんと目が合う。また、言い訳を考えていなかった。
「おじ様、わたしは海が好きなんです」
ニーナが落ち着いた口調で言った。
何を言い出したんだろうと、僕はニーナを見る。
父さんはニーナの顔を見て頷く。
「わたしは小さな頃、海で育ちました。ここ、王都は海から離れていて、どんなに高い建物に登っても、海は見えません。波の音も聞こえません。…わたしは、ときどき自分がここにいてもいいのかどうか、不安になるんです。心に風が吹いて、帰りたいと思ってしまうんです」
ニーナは、膝の上のスカートを握り締めていた。
「でも…屋根の上に上がると、空が近くなって安心できます。屋根の上で見る空は、海の上で見ていた空と同じだと感じます。屋根の上の風は、海から渡って来たんだと感じられるんです。例え遠く離れていても、海を感じることができる。だから、わたしには、屋根に登って空を見ることが必要なんです」
ニーナは、背筋を伸ばし真っ直ぐに、父さんの目を見ていた。
僕は、以前、同じような話をニーナから聞いたことを思い出した。屋根の上で。
ニーナは海をあんなに恋しがっていたじゃないか。
そして、僕を海へ連れていくと言ってくれた。
僕も父さんの顔を見つめる。
父さんは、しばらくニーナを見つめていたが、「わかった」と頷いた。
ほっとした表情で、ニーナも頷く。僕もほっとした。
「危なくないようにしてくれるね」
「はい、任せてください」
なんだろう、父さんとニーナの間の空気が変わったみたいだ。
「それで、アレクはなぜ屋根に登ったんだい?」
「え? えーと」
いきなり聞かれて、答えに詰まる。
「小さい青い方は、素早い動きで姿が見えなくなったけど、茶色い方は屋根の上でフラフラしていたと聞いたぞ」
確かに僕の髪は茶色い、今日のズボンも茶色い。すべて見られてたわけか、なんて目のいいやつだ。
不甲斐ないところを見られて悔しいし、言い訳が思い付かないから、黙っておく。
「アレクは体幹が弱いんだと思います。筋肉も、もう少しつけた方がいいかなぁと思います」
ニーナが、僕を見ながら年上ぶった言い方をするから、僕は憮然とする。
何でそんなことを言われないといけないんだ!
「確かに、もう少し体を鍛えた方がいいね。次回から、剣術の稽古の時間を増やして、厳しく指導してもらうよう、オスカーに伝えよう」
「ええっ」
愕然として父さんを見る。
僕が剣術に世界一向いていないことを知っている癖に、なんだか楽しそうな顔をしている。
いやいや、剣術の稽古が厳しくなるくらいなら、もっと別の罰を受けた方がいい。
「…いや、僕は、その、もう、屋根には上りません…から…」
「登ってくれてかまわないよ、落ちないようになってくれれば。ニーナが言うとおり、体幹を鍛えれば、自分の体をもっと上手く扱えるようになる」
「そんなぁ…」
「よかったね、アレク、剣術を頑張れば、また一緒に屋根に登れるね」
「ニーナまで…」
僕は、がっくりと肩を落とした。
お読みいただきありがとうございます!
叱られてへこんだ時は、グッと堪えて、そのあとは、舌だして笑って、笑い話に変えて…
今日も頑張っていきたいですね。




