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13 歓迎

ニーナが、ロートレック家で礼儀作法を学ぶ話は、すぐにまとまった。


シモン先生にも賛成され、父さんがニーナやルナール家に興味を持ってくれたから、話が早かった。

父さんからの申し入れを、マルクスが断ることはないと考えていた。

なぜなら公爵家で財務大臣という僕の父は、この国でも有数の権力者だからだ。

僕の読みどおり、マルクスたちに感謝された。

僕は、当家のマナー講師が王族にもマナー指導していた経歴も伝え、「ニーナさんは、大人しい方だから、いい生徒になると思います」と言うのを忘れなかった。


シモン先生の旅の出発を見送りに行った日に、ニーナを我が家へ連れて帰る。


ロートレック家に向かう馬車のなか、ニーナは、嬉しそうだ。

足をぶらぶらさせながら、窓の外を眺めている。

時折こっちをみて嬉しそうににっこりするから、僕の頬も緩む。

「ニーナ、今回、僕の家に来るにあたって、お兄さんたちに何か言われた?」

ニーナは、頷き、困った顔をする。


「マルクスには、公爵様の家で暴れたり、逃げ出したりしたら、タダじゃおかないって言われた」

なんだかニーナの扱いが酷くないか。僕はちょっとむっとする。

「リヒトには、お行儀よくする事、いろんな人の目あるから、気を抜かない事、アレクを困らせない事、何かやらかしたら必ず俺たちの耳にはいるから、覚悟しておくんだねって言われた」

なるほど、たくさん釘を刺されてきたんだね。可哀想に。


「でも、大丈夫だよな。アレクの家だもんな」

言われたことなんて全然気にしてないよと、にっと笑う。


「それよかさ、アレクんちって、おやつの時間もあるの?」

「おやつ?」

「うん、ルナールでは、着飾ったお姉さん達が、ティータイムって、美味しそうなケーキとか食べてたのを見たことがあるんだ。」

「そのときは、ニーナは一緒に食べなかったの?」

「わたしは養子だからな」

「他の子ども達とは、差別されてたってこと?」

僕はちょっと納得できなくて、聞き直す。

「差別とか、よくわかんないけど、おやつっていいなぁって思ってた。で、アレクんちが公爵家って貴族なら、おやつもあるのかなぁって」

期待に満ちた目で見つめられている。


「もちろん、毎日食べられるよ。うちのパティシエが、作るクレーム・ダンジュは、絶品なんだ! ふんわり濃厚なクリームチーズにイチゴソースがぴったりでね、…ぜひ、ニーナも食べてほしい。パティシエには、ニーナのために頑張ってくれるようにお願いしておくね」

「やったぁ! ありがとう、アレク!」

ニーナが、抱きついてきて、僕はまた、目を白黒させてしまう。顔が熱くなる。

「ニーナ、落ち着いて、座って」ニーナの両肩を掴んて、丁重に押し戻す。


「楽しみだなー、アレクんち。これで、リヒトのスパイがいなければいいのに」

「す、スパイ?」って、意味がわからない…


「リヒトが、『何かやらかしたら俺たちの耳にはいる』って言ったんだ。きっと、使用人の若い女の人をたぶらかして、わたしの行動を見張らせるつもりなんだよ。妹のことが心配だから、毎日の行動を知らせてほしいって、あのリヒトに、耳元で言われたら、言う通りにする女の人は、一人二人じゃないと思う」

「そ、そうなんだ…」

確かに美形だし、モテそうだもんなぁ。

「そ。でも大丈夫、アレクんちの使用人のうち、若い女の人には気を付けるって」

任せけと笑うニーナに、僕は頭を抱えそうになった。

…一体、どういう兄妹なんだ、君たちは…。


ニーナを迎えるにあたり、ルナール家に養子になった経緯を調べさせてもらった。

ニーナと、兄たちは2年前にルナール家の養子に迎えられた。

それ以前3人の生い立ちは、海辺の田舎町の商家の出生としか分からなかった。

その商家はルナール家当主の従兄弟の配偶者の親戚とされ、ずいぶん遠縁で、血縁にはない。

なぜそんな名もない商家の子どもが3人が、2年前に、名だたる大富豪であるルナール家に迎え入れられたのか。


経歴にはニーナの話と一致しないことがあった。

ニーナは、海で育ったと言っていた。話の内容から考えると航海船に乗っていたんだろう。

しかし、ニーナの出生とされる商家は海運業者ではなかった。

この兄妹は、判らないことが多い。


ルナール家を調べてわかった事が、もう一つある。

ルナール家は今、ここ王都で、拠点とする屋敷を探している。つまり王都へ進出予定なのだ。

伯爵家の御茶会でニーナに詩の暗唱をさせ、伯爵家との繋がりを深めようとしていたのは知っていた。

それが事業のためなのか、他に目的があるのかは、わからない。


でも、ニーナがその道具のように扱われている気がして、僕は気に入らない。

たとえニーナが敬愛するお兄さんたちでも、ぼくのニーナを、道具のように扱うのは許せない。



  * * * * * 



ロートレック家の屋敷に着くと、執事や使用人が玄関に並んで待っていてくれた。ニーナを歓迎してくれている。


父さんもニーナを待っていてくれて、挨拶してくれた。

「ようこそ、ロートレック家へ、ニーナ。私は、ジェラール・ド・ロートレック、アレクシスの父親だ」


「ニーナ・ルナールでございます。ロートレック様、この度はお招きいただきありがとうございます」

ニーナは、軽く膝を折って挨拶する。

「噂にたがわず、可愛らしいお嬢さんだね。自宅にいるように寛いでくれたまえ。夕食は一緒に取ろう。アレク、ニーナをお部屋にご案内して」

「はい。こちらへどうぞ、ニーナ」


ニーナを部屋に案内する。2階の客間。親戚の子どもが遊びに来た時に使用する部屋だ。

僕の部屋も2階だから近くていい。


ニーナは、使用人は連れてこなかった。

なんでも、ルナール家が都に来た際には、使用人は男性しかおらず、ニーナ付きの使用人はルナール家から同伴しなかったらしい。

当家では、二人の女性にニーナのお世話をしてもらうことにした。


ニーナは、着替えから何から自分のことは自分でできると言い張ったが、こちらとしてもニーナはお客様の扱いなので、使用人を付けないわけにはいかない。

すると、ニーナは「それなら、わたしも使用人役でいい」と言い出したので、説得に苦労した。

ニーナは自覚がないみたいだが、王国きっての大富豪ルナール家の令嬢を使用人扱いできるはずがない。

なんだかいろいろ、ニーナは、ずれている。


呆れた顔で僕らのやり取りを見ていた使用人には、「苦労を掛けるかもしれないけど、困ったことがあたら僕に言ってほしい」と伝えた。

お読みいただきありがとうございます。


あなたに読んでいただけて幸せです。

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