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10 薔薇

お茶会は長く、僕は飽きていた。

父さんは仕事もかねているから、交流に忙しく帰る気配がない。


薔薇の庭を眺めて時間を潰そうと、のんびり散歩をしていたら、聞き覚えのある声に足を止めた。

「あなたの美しさの前では、薔薇も嫉妬しているでしょう。ほらごらんなさい、あなたより、赤くなっている」

リヒトの声だ。なんだか、聞くに堪えないクサいセリフと言っている。

きゃあと女性の声が上がる。声の方を見ると、女の人たち数人に囲まれている。

爽やかな笑顔で話していて、僕の中のリヒトとは違う一面を見た気がした。

美しく着飾った女の人たちは貴族のご令嬢だろう、リヒトを見てうっとりと頬を染めている。

リヒトは細面で切れ長の目、形の整った鼻筋と、男の僕から見ても美しい。平民だが、この国有数の大富豪とアランが言っていたルナール家の子息であり、貴族のご令嬢にも関心が高いのだろう。


でも、僕は先日叱られたことを根に持っていた。あんまり顔を合わせたくない。

ご令嬢のみなさん、その人は、意地悪ですから気を付けたほうがいいですよー。その爽やかな笑顔は見せかけです。

僕が心のなかで毒づくと、ふと、リヒトが、こちらを見た。

げっ。目が合ってしまった。読心術でもあるのか、あいつ。

僕は慌てて視線を反らして、歩き始める。


速足で歩いて、人の気配がない場所へたどり着いたので、ほっとして薔薇に目をやる。

新品種と言っていた薔薇はどれだろうと。

「薔薇に興味がおありですか、アレクシス様」

すぐ横から声を掛けられて、僕は驚いて「わっ」と声を出してしまった。

人の気配は無かったはず。なんで急に表れるんだ、リヒト。


「おやおや、そんな嫌そうな顔をなされなくても。嫌われてしまいましたかね、私は」

眉をあげるリヒトを前に、僕は慌てて笑顔をつくる。

「こんにちは、リヒトさん。今、少し驚いただけです。失礼しました」

「それはそれは、驚かせてすみません」

にっこりと美しい顔で微笑む。

「先程、あなたをお見かけして、何か私にお話ししたいことがあるようでしたので、失礼ながら私から声を掛けさせていただきました」

やっぱりこの人は苦手だ。目があって逃げた僕を捕まえに来たらしい。そりゃ、目礼するくらいが礼儀だけど…。


「いえ、その、今日はまだご挨拶してなかったと、思い当たりまして、でも、お取り込み中でしたので…」

なんとか、言葉を濁す。

「気にとめていただいて、光栄です。取り込み中だったなんてとんでもありません、並みいる貴婦人がたとお話しするより、公爵様のご子息であるあなたにお声がけいただけるほうが、私にとっては価値があります」

貴婦人がたに失礼な発言じゃないか?あんなにうっとりと見られていたのに。

こういうことをさらっと言ってのけるのがうん臭い。


「実は、先日は、あなたに少しきつく言い過ぎたのではないかと、謝ろうと思っていたのです。もちろん、あなたことを心配しての言葉だったのですが、あの後、初対面で言い過ぎだと、兄にも叱られました。もしもお気を悪くされていたのでしたら、お許しください」

あまりにも意外な言葉に、僕は言葉の真意が知りたくてリヒトの目を覗きこんでしまった。優しげな眼差しで僕を見ている。

「い、いえ、あのときは僕が軽率だったんです。ニーナにも失礼なことを言ってしまいましたし、僕も反省しています。リヒトさんはどうかお気になさらないでください」

「よかった、では、お許しいただけるんですね」

ほっとしたように微笑むリヒトに、僕も微笑み返す。

それからリヒトは、薔薇の品種について僕に教えてくれた。この庭の薔薇の植栽にルナール家も携わっていたらしい。美しい容姿のリヒトに優しく丁寧に説明してもらえると、僕の中のリヒトのイメージは少し解れてきた。


「リヒト!」

マルクスとニーナが二人並んで、僕らの方へ歩いてきた。

「やあ、アレクシス様、リヒトがご一緒させていただいてたんですね」

マルクスが爽やかな笑みで言う。

「先ほどはありがとうございました。お陰様でアラン様に、弟たちを紹介できましたし、伯爵家の方々他皆さんとお付き合いを広めることができました。今さっきは、アレクシス様のお父上ともお話させていただいたところです」

「父とお会いになったのですね」

「ええ、私たちのような身分のものにも、親しげにお声がけいただきました。これも、アレクシス様のお陰です。あなたにお会いできてよかった」

マルクスの言葉に、僕は恐縮した。

「いえ、僕は何も…」

「これからも、ニーナ共々よろしくお願いします。」

マルクスは人懐こい笑顔で言った。それから、これから予定があるため先に帰りますと、僕に告げた。


マルクスが、リヒトとニーナを二人を伴い、礼をすると、二人はそれに倣った。

美しい3兄妹が薔薇を背景に並んで微笑むと、それはそれは美しく絵になった。

舞台のフィナーレを見ているようだ。


ニーナは、兄たちの後に続きながら、一瞬、振り返った。

僕に、にっと満足げに笑い、小さく手を振っている。

僕も小さく手を振り返した。

お読みいただきありがとうございます。

感謝感激です。


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