第8話 記憶をなくした菜実
昨日の夜は全然眠れなかった。
守に対する自分の気持ちを自覚してしまい、今までの自分の行動についての反省やら後悔やらで頭がショートしそうだった。
並木道のベンチでに座っていると、柚希がこっちに向かって歩いてくるのが見える。
「おはよう!どうしたの?なんかあった?」
寝不足でひどい顔の私を見て、柚希が心配そうにしている。
自分の本当の気持ちに気づいてしまい、私はどうしようもなく動揺していた。
この気持ちを誰かに話してしまわないと、心が壊れてしまいそうだ。
そうだ、柚希に話してみよう。
「あのさ、今度、柚希の家に泊まりに行ってもいい?」
「もちろん!いつにする?」
「今週の土曜日は?部活のあと、そのまま」
「了解」
柚希は何か聞きたそうにしていたが、何も言わずいつも通りに接してくれた。
本当に優しくていい子だ。
それにしても、柚希の雰囲気がいつもと少し違う気がする。
表情がやわらかいというか、なんか可愛らしい感じ。何かいいことでもあったのかな……。
それも土曜日に聞いてみよう。
そして土曜日。
部活が終わり、私と柚希は一緒に北河田駅に向かった。
「今日は、飲もう!」
私は飲む気満々だ。
北河田駅近くの居酒屋に入り、私はチューハイを飲んでいる。柚希はあまりお酒が強い方ではないので、カクテルを少しずつ飲んでいるようだ。
「この前見学に来た子、守のことが好きなのよ。きっと!」
お酒の勢いもあり、文句がどんどん湧いてくる。
「守もヘラヘラしちゃって。調子に乗ってんじゃないわよ!」
ドン!とグラスを置いた私を見て、柚希がハラハラしながら聞いてきた。
「高瀬くんと何かあったの?最近、なんか変だよ」
「何もないわよ。っていうか、あんなやつどうでもいい。私は美形が好きなのよ!」
グビグビ飲んでいる私を、柚希が心配そうに見ている。
「菜実、ちょっとペース速すぎだよ。まだ三十分ぐらいしか経ってないのに、もう五杯目じゃない」
「うるさいなー。今日は飲みたい気分なのよ!」
口うるさいお母さんみたいなこと言わないでよ。
もう、誰も私の気持ちなんてわかってくれない。
なんだか悲しくなってきて、涙が出る。
「菜実、大丈夫?」
「私って、どうしようもない女なのよ……」
それを最後に、私の記憶はなくなった。
あれ?ここ、どこ?
目を覚ました私は、起きようと思って体を動かした。
「痛っ!」
頭がガンガンする。
やっとの思いで体を起こして辺りを見回すと、柚希のマンションだった。
どうやってここまで来たのだろう。何も覚えていない。
丸いローテーブルの上にメモが置いてある。柚希はバイトに行ったようだ。
メモには、昨日の出来事も簡単に書いてあった。
どうやら私は動けなくなり、たまたま通りがかった東条くんとその友達がここまで運んでくれたらしい。
「私、何やっちゃってるんだろう……」
いろんな人に迷惑をかけてしまった。結局、守のことも柚希に相談できなかったし。
まったく、どうしようもないな……。
柚希が用意しておいてくれたヨーグルトを食べた後、あまりにも頭痛がひどいので私はまた布団に潜った。