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第7話 和哉の買い物

 今日は柚希さんと、飯を食いに行くことになっている。

 前におごったラーメンのお礼をしたいらしい。

 本当に律儀な人だ。俺はとっくに忘れていたのに。


 何をおごってくれるんだろう。

 あまりかしこまった店は困る。ラーメンにしてもらうか。



 さて帰ろうと思った瞬間、友達からLINEがきた。


「やべぇ……」


 今度の日曜日に道場の先輩の家に行く約束をしていたことを、俺はすっかり忘れていた。

 出産祝いを持っていかなければならないのに、まだ買っていない。


 明日はちょうど部活がないし、買いに行くか。




 そして翌日。

 駅までの帰り道、俺は出産祝いのことで頭がいっぱいだった。


 駅に着くと、マネージャーの白河に声をかけられた。

 出産祝いのことを相談しようかと思ったが、こいつに聞いてもどうせわかるはずがない。

 俺は勝手にがっかりした。


 電車の中では何かいろいろと話しかけられたが、俺は半分上の空だった。


 出産祝いって、赤ちゃんのものを買えばいいのか?それとも、奥さんが使うものを買えばいいのか?


適当に相槌をうっていると、いつの間にか北河田駅に着いていた。



 電車を降りた俺は、柚希さんが向こうの方で手を振っているのを見つけた。

 そうだ、柚希さんならわかるかもしれない。


 希望が見えた俺は嬉しくなり、思わず手を振り返した。


「同じ電車だったんだね。今日は何食べたい?でも、夜ごはんにはまだ早いわよね。私、何も考えずにこんな時間に待ち合わせちゃって……」


 柚希さんは、ちょっと困った様子だ。

 それなら今、一緒に出産祝いを選んでもらおう。


「じゃあ、買い物付き合ってもらえませんか?明後日、道場の先輩の家に出産祝いを持っていくんだけど、何がいいのか全然わからなくて」


 柚希さんは少し考えてから、思いついたように言う。


「じゃあ、あそこのショッピングモールに行こう。たしか、赤ちゃん用の可愛いものが売ってるお店があったはず。前に私、そこで従姉に出産祝いのプレゼントを買ったもの」




 柚希さんに選んでもらい、無事に出産祝いを買うことができた。

 俺は心底ホッとしていた。


「せっかくここに来たから、上のレストランで食べようか」


 柚希さんの提案で、エスカレーターで五階へ行く。


「一人暮らしだと、普段適当なものばかり食べちゃうのよね。あそこのお店はどう?和定食とかあるし」


 柚希さんはが定食屋のような店を指差して言った。

 あそこならかしこまってなくていいな。

 俺は安心して頷く。


 店に入って席に着くと、柚希さんが話しだした。


「私、あまり外食しないんだ。一人でお店に入るのって、なんか苦手で」


 女の人って、いろいろ大変なんだな。男なんて、どこでも一人で入るのに。


 そのとき、店の壁に貼ってあるポスターを指差して、柚希さんの顔がパッと明るくなる。


「あっ、『源平の合戦』だ! あの映画、前から見たいと思ってるの。私ね、源氏と平氏のあの時代が大好きで、高校のときにいろんな本を読んだのよ」


 柚希さんはすごく嬉しそうだ。

 何を隠そう、俺も源義経ファンだ。義経に憧れて剣道を始めたと言っても過言ではない。


 そう説明すると、柚希さんの表情が益々明るくなる。


「私も義経ファン!語りだしたら、止まらないわよー。そのせいで、高校のときは『歴史バカ』なんて言われちゃったんだから」

「俺も『剣道バカ』って言われてました」


 柚希さんは大笑いしている。

 こんな風に笑うんだな。

 いつもはクールなイメージの柚希さんの笑顔は新鮮だ。笑うと子供っぽく見えて、なかなか可愛い。


 そのあと柚希さんは、源氏と平氏のウンチクを夢中になって話し出した。

 それが意外と面白くて、俺は聞き入ってしまった。


「もうこんな時間。歴史の話ばっかりしちゃって、ごめんね」


 気づいたら一時間も経っていた。柚希さんは焦っている。


「いや、面白かったですよ。本当に歴史が好きなんですね」

「うん。だから史学科に入ったんだもん」


 柚希さんは、満面の笑みで答えた。

 やっぱり、笑うと可愛い。俺は改めてそう思った。



 店を出てからも義経関連の話は続き、あっという間にスーパーの前まで来た。ここからは別方向だ。


「今日は、ごちそうさまでした。買い物にも付き合ってもらって、本当にありがとうございました」

「出産祝い、喜んでもらえるといいね。それじゃ、明日部活でね」



 家に向かって歩きながら、レストランでの柚希さんとの会話を思い出す。

 なんか、すごく楽しかったな……。


 俺はかなりの上機嫌で、家に向かって歩き出した。

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