第3話 横山涼
授業後に学食でコーヒーを飲んでいると、ショートボブの美女が手を振りながらこっちに向かってきた。
可愛すぎる!スタイルもいい!パーフェクトだ!
その美女は、俺の隣に座っている和哉に話しかける。
「さっき、守が探してたよ。あっちの席にいるから、あとでちょっと行ってあげて」
「主将が?わかりました」
主将とか言ってるから、剣道部のマネージャーってことか。隣にいるもう一人は、正統派美人だ。
こんなに綺麗な人たちがマネージャーだなんて、羨ましすぎる!
二人が去った後、俺は和哉に聞いてみた。
「どっちが好みだ?」
「おまえ、またそんなこと言ってんのかよ」
和哉は「くだらねぇ」と言って席を立った。
いつもそうだ。女の話をしようとすると、あからさまに嫌そうな素振りをする。
その気になればモテそうなのに、女を寄せ付けないオーラをまとっている。
あんなに魅力的なマネージャーが近くにいるのに、もったいない。
俺も剣道部に入るかな……。なんて、冗談でもそれはないな。
俺はチェッと軽く舌打ちをした。
数日後のバイト帰り、駅の改札を出て少し歩いたところで、俺は目を疑う光景を見た。
和哉が女と歩いてる。
あいつ、いつも「くだらねぇ」とか言ってるくせに。
俺は猛ダッシュで和哉のもとへ向かう。
「おまえ、今、女と一緒じゃなかったか?」
「ああ、マネージャーと飯食ってたんだ」
マネージャー?
後ろ姿しか見えなかったが、ストレートのセミロングだったから正統派美人の方か。
和哉のやつ、あっちが好みだったのか。
「ふーん、そういうことか」
「誤解すんな!財布忘れて食うもんがないっていうから、ラーメンおごってやっただけだ」
ラーメンだと?
女をラーメン屋に誘うなんて、女心をわかってないな。
「おまえ、女性をラーメン屋に誘うなんて、センスのかけらもないやつだな」
「俺はラーメンが食いたかったんだよ。悪いか!」
俺だったら、お洒落な店に誘って盛り上げて、そのあとは……。
いや、待てよ。もしかして……。
「おい、マネージャーの家はこの辺なのか?」
「あのスーパーの裏に住んでるらしいぞ」
「そうか、それはよかった!今度家に行くぞ」
「勝手に行けよ。じゃあな」
女の話になると、和哉はいつもあんな感じだ。
まあ、きっかけさえ作ってもらえれば、あとはこっちでなんとかすればいい。
早速明日、頼んでみよう。
翌日の授業後、俺と和哉は学食でレポート課題をやっていた。
朝から何度も「マネージャーを紹介してくれ」と頼んでいるのだが、相手にしてくれない。
そのとき、和哉を呼ぶ声がした。
なんと、正統派美人マネージャーがこっちにやって来る。
チャンスだ!
「よかった、探してたのよ。あっ、友達と一緒だったんだ、ごめんね」
「横山涼って言います。和哉と同じ社会学科の一年です。涼って呼んでください」
「史学科四年の森村柚希です。よろしくね」
柚希さんって言うのか。華やかさはないが、気品があるな。
「手間が省けたな」
和哉がニヤニヤしながら言った。
なんてこと言うんだ、こいつ!
「手間?なんのこと?」
「いえ、なんでもないです」
俺はテーブルの下で、和哉の足を蹴飛ばした。
「俺、シェフを目指していて、いつも家でいろいろなメニュー作ってるんです。たまに和哉に試食してもらってるんですが、柚希さんも今度試食してくれませんか」
「いいの?楽しみにしてる」
よっしゃ!これできっかけはできた。あとは努力あるのみ。
和哉が何か言いたそうな顔でこっちを見ている。自分を巻き込むなと言いたいのだろうが、そんなの知ったことじゃない。しっかり協力してもらおう。
レポートを書き終わり学食を出ると、ある女性に目が留まった。
あれはたしか、もう一人の剣道部のマネージャーだ。あのパーフェクトなルックスは、間違いない。あっちには、剣道部の部室があるんだったな。
それにしても、元気がなさそうだ。前に会ったときは、もっとはつらつとしたイメージだった気がするが。でもまあ、哀愁漂う姿も美しいな。
和哉が聞いたら、きっと「くだらねぇ」と言うだろう。
そんな和哉を想像して、俺はプッと吹き出した。
あいつは、女ってものに興味がなさ過ぎる。いや、もしかして異常に照れ屋なだけか?剣道バカだから仕方ないか…。
そうだ、試食にはあのマネージャーも一緒に来てもらおう。