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初投稿です!誤字脱字等があった場合そっと教えて下さると幸いです。
残酷な表現ありです。
暖かい。
まるでぬるま湯に浸されているような感覚に包まれる。
ゆらゆらと揺れながら、心地の良い波紋が伝わってくる。手足を動かそうにも身動きが取れない。
まるで密封されているように感じる。でも、恐怖は感じない。それどころか、安心感が増すばかりだ。
ここはどこ?周りを見まわそうにも、目が開かない。
何も出来ない・・・・けど・・・ひとつだけ分かることがある。
私は、もうすぐこの心地の良い場所から出なくてはいけない。外で私のことを待っている人がいる。
これだけは分かる。
あぁ、でもここにもっといたいなぁ・・・
ここから出たくない気持ちと、早く出ないといけないという相反した気持ちになる。
あと少しだけ。あと少しだけ、ここにいさせて。必ずここから出るから、必ず、私を待ってくれている人たちの元に行くから。
それから少しして私は外から光を感じた。
そこで私の思考は脆い糸が途切れるようにプツリと切れた。
頬を優しく撫でるような柔らかい風に、私はゆっくりと瞼を開ける。
ここ・・・どこ?
確か私は・・・あれ・・・思い出せない・・・
思い出そうとしてもスルスルとてを滑り抜けるように記憶が消えていく。
あれはなんだったんだろうか?私の気の所為?
それよりも本当にここはどこなんだろうか。上を見てみると優しいクリーム色の天井が見える。しかし天井がいつもより高く感じることに違和感を覚える。
ん・・・?どういうこと?
全く状況を把握することが出来ず、戸惑ってしまう。慌てて横を見ようとするも、顔しか動かない。
待て待て、本当にどういうこと!?ていうか私、体が動かないんだけど!?
体をジタバタ動かすことでようやく私が寝かせられていることに気づく。
そこで動かしたことで私の視界に入った手に驚く。
この手、小さすぎない?いや小さすぎるっていうより、赤ん坊の手に似て・・・
そこで私は嫌な予感がして自分の視界に入るようにゆっくりと足を上に持ってくる。そこにはふにふにとした小さな足が見えた。長さも短い。
・・・・なるほど。この手足は正真正銘赤ん坊の手足だ。つまり私は赤ん坊になってしまったと。
今冷静に考えを整理している自分にはおどろいてしまう。
というか私は何で赤ん坊になってるの?
私は自分のことを思い出すように頭をひねる。すると段々と自分のことを思い出してきた。
あぁそうだ。私は高校生だった。
女子高に通っていた私は、家族三人で暮らしていた。病院の医師として務める父と、弁護士として務める母の一人娘だった。
医師と弁護士という職業柄、両親は多忙で、私は小さな頃から一人で留守番することが多かった。寂しい時もあったけど、両親に迷惑をかけたくなくて、我慢することも多かった。
流石に高校生ともなると慣れはしたが、それでも、寂しい気持ちが溢れそうになる時はあった。
でも、学校は楽しかった。友達と放課後に遊びに行ったり、他愛のない話をしたりするのがとても楽しくて。
私はよく色々な部活の助っ人に入ることがあったので、学校ではよく話しかけられていた。特に後輩の女の子には、私のファンだと言ってくれる子もいた。私は見た目も割とボーイッシュだったので、余計だろう。
純粋に慕ってくれることは嬉しかったし、日々の生活は充実していたと思う。
ここまで思い出して、私はあの時全身に受けた衝撃と眼前に広がっていた光景を思い出す。 その瞬間、私の全身は硬く強ばる。
私は自分の十七年の人生が終わる瞬間を思い出した。
私は交通事故にあったんだった。
肌に刺さるような冷気を感じながら、冬特有の寒さの中、私は家に帰ろうとしていた。夕方であるにも関わらず、夕暮れの色は姿を消し、うっすらと闇が広がっている。
この日は友達と帰らず、一人で帰っていた。私は図書館で勉強していたので、申し訳なさそうにしながらも、皆先に帰ってしまっていたのだ。
吐く息が白く変わり、空気に溶けていく。周りを見ると、私のようにマフラーを巻いた生徒がちらほら見え、コートを着ている生徒もいる。それを見ると、冬が来たんだと実感する。
私は横断歩道の信号が青になるのを待ちながら、一人取り留めのないことを考えていた。
もうすぐ三年生になるなぁ。もう受験生になるのかぁ。高校生なんてすぐに終わっちゃうな。なんて思いながら。
信号が青になったのを見て、私は歩き出す。学校を出る時は私と同じ方向に向かっている生徒がいたはずなのに、信号を渡っていたのは私だけだった。そんな少しの違和感を感じながら歩いていると、車の向かってくる音が聞きえた。横を見てみると、大型トラックがこちらに向かってきていた。どんどん近づいてくるトラックに止まる様子はない。
まるでこのまま突っ込んでくるような・・・
あっ、これはまずい
そう思った時には、もう私の真横にはトラックが迫っていて、視界いっぱいに眩い光が写っていた。
そして、瞬時に強すぎる衝撃を体に受ける。耳には自分の骨がミシミシと折れる音と、周りの劈くような悲鳴が聞こえる。目は霞み始め、フィルター越しに赤が見えたようだった。この色はなんだ。何が起きた。
状況を飲み込もうと頭が瞬時に働く。が、次の瞬間新たな衝撃を受ける。今度は重すぎる物体に押し潰されながら、引きずられる感覚。
二度もの強すぎる衝撃を受けた私は息をすることすらままならない。口からヒューヒューと音がする。
体は言うことを聞かず、動かそうとするとギシギシと嫌な音を立てる。右手の感覚がない。いや、感覚というか、右手自体がない。足を動かそうとすると、おかしな方向に曲がった足がカタカタと不気味に動く。
もうまともに考えることが出来ない。何も出来ない。
私は勝手に閉じていく瞼の間から、暗い空を見た。
その空は私の命の終わりをはっきりと告げているようだった。
私はあの時に感じた衝撃を思い出し、恐怖を感じた。事故にあった時は何が何だか分からなくて、恐怖なんて感じる暇はなかった。
今になって体が恐怖で震え出す。呼吸もうまくできず、ハッハッと短い息しか出せない。
もうあんな思いはしたくない、怖い。怖い。怖い。誰か助けて!!震えが止まらない、怖い!!
涙が止まらず、体も自由に動けない。
私の心は不安と恐怖でいっぱいになる。
私は助けを求めるように泣く。
「ふぇぇぇーーん!!!ふっぅふぇ、ふぇぇぇぇーーーん!!」
私は、嗚咽混じりに泣くことしか出来ない。どんどん声が大きくなる。
自分でも止められなかった。
「びゃあああああああ!!!ふっぅふぇええーーん!!」
止めることの出来ない涙と声に苦しくなる。
すると、何処からかバタバタと焦ったような足音が聞こえてきた。